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ユーザー情報を収集しないシステムへの再設計が急務

ストールマン氏が語る「巨大な監視エンジンと民主主義の危機」

2014年01月09日 07時00分更新

文● 末岡洋子

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このままでは「1984」のレベルよりも高い監視社会になる?

 「監視が一定レベルに達すると民主主義は実現可能ではなくなる」とストールマン氏は危機感を露にする。教育、医療、公安、それに公共インフラ整備など、政府の役割を認めながら、「政府には権力があり、その権力がきちんと使われなければ、市民を破壊・鎮圧することになる。われわれは政府をしっかりコントロールする必要がある。その最初のステップが、政府が何をしているのかを把握することだ」と続ける。そして、自身が抱く危機感の根拠として、米国政府がなにをやっているのかを知らせた告発者たちに対する米国政府への厳しい態度に触れた。

 たとえば、元CIA職員で米国政府がアルカイダの容疑者に対して拷問を行なっていることを知らせたジョン・キリアコウ(John Kiriakou)氏は、「政府が何をやっているのかをわれわれ市民に教えてくれた。だが政府は起訴する理由を探すべく彼のメールをすべて収集し、その結果(キリアコウ氏は)牢屋にいる」とストールマン氏。現在刑務所にいるチェルシー・エリザベス・マンニング(Chelsea Elizabeth Manning、旧称はBradley Edward Manning)氏も同じだ。「米国政府の罪をわれわれに教えてくれたために投獄された」(ストールマン氏)。これらの前例を熟知しているスノーデン氏は、なんとかロシア亡命に至った。「内部告発者を“犯罪人”と決めつけることは、内部告発者を発見するための監視がまかり通ることになる」とストールマン氏。

内部告発者の保護を訴えるストールマン氏

 「民主主義のためには、われわれ個人のデータをシステムが収集するのを認めるわけにはいかない。現在のままでは、誰がメディアに告発したのかを追跡できてしまう。監視レベルを下げて、誰が情報を伝えてくれたのかが分からないようにしなければ、民主主義のためにならない」とストールマン氏はわれわれが向かっている方向に警笛をならす。「(ジョージ・オーウェルの)「1984」で描かれたレベルよりも高い監視社会に生きることになる」。そのような事態を阻止するためには、「ユーザー情報を収集しないようにシステムを再設計する必要がある」と提案した。

ユーザー情報を収集しないシンプルなシステムへ

 すぐにできることとして、「もしあなた方がWeb経由で配信するサービスに従事しているのなら、倫理的な判断をしなければならない」とストールマン氏は会場の開発者に再度呼びかける。「ユーザーが認証をしなければ使えないのか、有料サービスなら匿名で支払いできるのか、ユーザーがなにをやっているのかを記録するのか」と判断のポイントを挙げた後、フリーソフトウェア技術を紹介した。たとえばフリーではないJavaScriptを埋め込んでいるのかをスキャンできるFirefoxアドオンの「libreJS」、訪問者についての統計をとる「piwik」などだ。

 最後にストールマン氏は、「自分が構築するWebサイトが訪問者に対して倫理に反することをしないようにすることで、フリーを支援することができる」と聴衆に訴えた。

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