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ユーザー情報を収集しないシステムへの再設計が急務

ストールマン氏が語る「巨大な監視エンジンと民主主義の危機」

2014年01月09日 07時00分更新

文● 末岡洋子

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フリーソフトウェアの推進役であるリチャード・マシュー・ストールマン氏が2013年10月に開催されたダブリンのベンチャーイベント「Web Summit 2013」に登壇。なぜフリーダムが必要なのかをユーザーの権利とインターネットがもたらした新しい監視社会の2つの観点で語った。

「フリーダム」に関連する新しい問題とは?

 リチャード・マシュー・ストールマン(Richard Matthew Stallman)氏といえば、その半生をソフトウェアのフリーダム(自由)のために捧げてきた人物だ。60歳になったストールマン氏は、UNIX全盛だった30年前にすべてをフリーソフトウェアで行なうためのソフトウェア群を揃えることを目標に、GNU Projectを創始。そのなかで欠けていたカーネル部分を開発し、「Linux」と名付けたのがご存じリーナス・トーバルズ(Linux Torvalds)氏だ。その後、Linuxと商業としての“オープンソース”ブームをよそに、ストールマン氏は頑に“フリーソフトウェア”を提唱している。

ダブリンのベンチャーイベント「Web Summit 2013」に登壇したリチャード・マシュー・ストールマン氏

 今をときめくソーシャルやモバイルなどのWebアプリを開発する開発者や起業家を前に登壇したストールマン氏は、定番である「4つの基本的自由」から話を始めた。フリーダム0は「自分が望むようにプログラムを動かす自由」、フリーダム1は「ソースコードを調べて改変できる自由」、フリーダム2は「複製を再配布できる自由」、フリーダム3は「改変したバージョンを再配布できる自由」、となる。最初の2つ(フリーダム0と1)は各ユーザーがプログラムに対するコントロールを得るためのもので、次の2つ(フリーダム2と3)は他人を含む集合的なメリットをもたらす。

 「もしすべてのソフトウェアがフリーならば、われわれは自分のコンピュータ上で行うコンピューティングに対してコントロールを得られる。これは基本的なものだ」とストールマン氏は述べる。「ソフトウェアはユーザーがプログラムをコントロールするか、プログラムがユーザーをコントロールするかのどちらか。フリーソフトウェア以外のものは拒否すべきだ」と続けた。

 ストールマン氏はこれらの主張を広げるべく、そしてGNU Projectを推進すべく、1985年に非営利団体のFree Software Foundaionを立ち上げた。現在でも、設立者としてフリーソフトウェア活動の中心的な存在だ。これまでは「Windows OS」を筆頭に、ソースコードが開示されていないプロプライエタリなプログラムに対して戦ってきたが、28年間でわれわれを取り巻く環境は大きく変わった。最たるものはインターネットの普及だろう。

 「フリーダムに関連する新しい問題がうまれている。フリーソフトウェアの利用により自分のコンピュータの中をすべてコントロールできても、インターネット上では自分の行動を十分にコントロールできない」とストールマン氏は新しい脅威を取り上げる。

インターネットは巨大な監視エンジンになった

 たとえばオンライン音楽サービス、電子書籍などがユーザーの情報を収集し、利用を追跡していると指摘する。音楽の場合、CDなら店頭で匿名で購入して、自分の好きな技術で再生し、友人と貸し借りできる。法の許す範囲内で複製も可能だ。だがオンライン音楽の場合、利用にあたって「契約」を行う。この契約の下では、利用者はCDと同等の権利を得られない。DRMにより利用が制限される「デジタル手錠」がかけられた状態だ、と形容する。

 電子書籍も同様で、「Amazon Kindle」の場合は、本を購入するのにID入力が必要で、どのページを読んでいるのかを「スパイ」し、これらの情報を収集してAmazonに送る。メモを作成したら、その内容も収集する。「悪意ある技術だ」とストールマン氏、そういった特徴から“Kindle”ではなく、“搾取”を意味する“Swindle”だと形容した。プライバシーの点だけではなく、これらのサービスは「アンチソーシャルだ」とも述べる。「友情を示す方法の1つが、好きな本やCDの貸し借りだ。もし友達が誰にも本や音楽を貸さない契約にサインしたらどう思うか?」とストールマン氏、Webではソーシャルまっさかりだが、デジタル技術により現実世界のソーシャルが損なわれつつあるとの見解を示した。

 インターネット以外でも、デジタル化により監視は進んでいる。クレジットカードを使えば、その人がいつ・どこで・なにを・いくらで購入したのかの情報がデータベースに蓄積されていく。「インターネット、そしてデジタル技術全般が巨大な監視エンジンと化してしまった」(ストールマン氏)。

 ストールマン氏はこれらの問題点をあげながら、会場にいるソフトウェア開発者に対して次のように呼びかける。「DRMを使うべきではない。また、ユーザー認証してデータを収集すべきではない。他社のデータ収集を支援するのもよくない。Webビーコンを埋め込んで、“情報を収集していない”というのは、“自分たちはユーザーを特定しておらず、追跡していない。やっているのは広告ネットワークだ”というNSA(米国家安全保障局)の誤解させる発言と同じだ。もし自分のWebサイトを公開しているのなら、そのサイトが行なうことはあなたに責任があるはずだ」。

 2013年の大事件の1つは、エドワード・スノーデン(Edward Snowden)氏の告発により、米国政府によるWeb上の大規模な個人情報収集が明らかになったことだろう。ストールマン氏は「ユーザーのプライバシーが危機に瀕している」だけではなく、「民主主義そのものが問われている」と提起する。

(次ページ、このままでは「1984」のレベルよりも高い監視社会になる?)


 

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