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末岡洋子の海外モバイルビジネス最新情勢 第89回

独首相など政治家も愛用 根強い人気のBlackBerryの運命は……

2013年10月30日 15時00分更新

文● 末岡洋子

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 BlackBerryの身売り先がそろそろ決定する。最初に投資会社と暫定合意した後、Lenovo、そしてGoogleやIntelなどの企業の名前が挙がっており、Mike Lazaridisら共同創業者に加えて、なんとSteve Jobsとの因縁でもおなじみの元Apple CEO、John Sculley氏の名前まで飛び出している。

政治家御用達?
ドイツのメルケル首相はBlackBerry Z10ユーザー

 先週末に一般紙でも大きく取り上げられた話題が、米政府による欧州政治家への盗聴問題だ。携帯電話でのやりとりが、NSA(National Security Agency、国家安全保障局)により監視されていたという。中でもドイツのAngela Merkel首相は怒り心頭でドイツの米大使を呼び出し、ブリュッセルに集まった英仏首脳とも、この問題について会談したようだ。

 ここでついつい気になってしまうのが、Merkel首相がどんな携帯電話を使っていたかだ。Merkel首相は長らくNokiaユーザーとして知られていたが、2013年に入り、BlackBerry 10搭載の「BlackBerry Z10」に変えていたようだ。

新OSを搭載したフルタッチ型のBlackBerry Z10がメルケル独首相の愛機のようだ

 今回の報道では背面にドイツのシンボルであるワシのマークが付いたBlackBerry Z10を持つ姿が多くの紙面に掲載された。なんでもドイツのセキュリティ企業であるSecusmart(http://www.secusmart.com/)の暗号化技術を利用しており、プライバシーモードでのチャットなどが可能だったという。

 SecusmartはBlackBerry 10向けのセキュリティソリューションを“Kanzlerphone”(首相の携帯電話)として売り込んできた。米国相手のこの盗聴騒ぎがどこまでの話なのかがよくわからないが、セキュリティ製品としてはキズが入った格好か。ちなみに当の盗聴した側(?)であるBarack Obama大統領もBlackBerryユーザーとして有名である(編註:米国でも話題になるようだ)。

 このように、いまだに愛用者が多いBlackBerryだが、業績低迷で身売り先を探している状態である。Merkel首相のBlackBerry Z10は、新OSであるBlackBerry 10を搭載したフラッグシップ端末として期待がされていたが、発売から約5ヵ月で販売台数は270万台というさみしい数字に終わっている。売上が振るわなかったことから、同社は第2四半期に約9億6000万ドルの在庫調整評価損を計上している。

 8月に身売りを検討していることを明らかにした後、最初に47億ドル(約4600億円)の値札を付けて名乗りを上げたのが投資会社のFairfax Financialだ。その後、Samsung、LGなどの元ライバル企業、Google、Intel、Cisco Systems、SAPと複数の企業に打診を続けているようだが、その場合BlackBerryを丸ごと買収というよりもエンタープライズネットワークなどを切り売りする形になるようだ。投資企業としては、Cerberus Capital Managementの名も上がっている。

本命はLenovoか?
スマホ事業を急ピッチで構築、国外展開図る

 本気度が高いように見えるのがLenovoだ。PC大手として知られるが、「IdeaPhone」ブランド(中国内では「LePhone」)で中国を中心にスマートフォン市場に進出している。大きな国内市場とブランド力もあって、後発ながら伸びは目覚ましく、第3四半期は前年同期130%増で成長、LGに次ぐ4位に付けている(IDC調べ)。ZTEやHuawei Technologiesを凌いでおり、シェアは4.7%。なお、OSはAndroidだ。

 LenovoがBlackBerry買収に興味を示しているというのは新しい話ではなく、過去に何度かあった。例えば1月には、Lenovo最高財務責任者(CFO)のWong Wai Mingが端末事業買収を検討中と米メディアに話したことが大きく報じられた。今回、10月中旬にWall Street Journalが報じたところによると、LenovoはLenovoの財務状況を見るためのNDAを結んでいるとのことだ。

 LenovoのBlackBerry買収は、スマホ事業の国外展開からみると納得がいく。LenovoはHTC買収の憶測もあり、国外展開にあたって効率の良い方法を模索していることが伺える。だが、HTCとBlackBerryとでは難度が違う。

 まずはOSをどうするのか――具体的にはBlackBerry 10を続けるのかどうかだ。この点、HTCはAndroidがメインなので難易度が低い。次に政治的な障害だ。Huawei Technologies、ZTEがネットワークインフラで直面しているように、米国は中国の通信企業に厳しい姿勢を取り続けている。同社が2004年にIBMを買収したときとは比較にならないほどに、米中関係は変わっている。しかも、先述の通りBlackBerryは政治家をはじめ政府機関が利用しているのだ。買収となれば、BlackBerryの本拠地であるカナダ政府、それに米政府の精査が入るとみる向きは多い。この点もHTCにはない障壁だ。

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