『翠星のガルガンティア』村田和也監督インタビュー 後編
レドの相棒チェインバーはスマートフォンだった!?
2013年10月19日 12時00分更新
人類銀河同盟とヒディアーズの殲滅戦争は
意見の「擦り合わせ」を怠った結果
―― その改造に特化した存在がヒディアーズだということですね。
村田 はい。人類銀河同盟の考え方というのは、保守主義なんですよ。いままでの人類の遺伝子セットを維持するのがいいんだと言い続けていて、バイオ技術が開拓してきたいろいろな可能性を封印してしまっている。
それとは逆に、ヒディアーズを開発したイボルバーの側は「進化できる限り進化すればいいんだ」みたいな極限的な思想にまで達してしまった存在です。その結果として生み出されたのがヒディアーズですが、あそこまでいくと、いまの我々の感覚からすれば、「それはもはや人類じゃないよ」と言いたくなりますよね。
―― ヒディアーズという存在は、生命維持に特化した生物だということは、それは思考とか意思を持たない、「人間ではない」存在ということでしょうか?
村田 作品内では、ヒディアーズが人間であるか否かについては断定していないんです。本編中でヒディアーズの謎は解き明かせたわけではなく、未知の存在であり“生き延びるための生存戦略として、あくまでも外から見たときに、まるで人間の知性を失ってしまったように見えるよう描いていますが、本当に失ったかどうかはまだわからない”――という終わり方にしています。
最終回でレドが「クジライカともコミュニケーションができるようになるかもしれない」と言っていますけれども、あれで、ヒディアーズが知性を失っていないかも知れない、という可能性を残しているんですよね。
―― 知性があるかないかわからない、ヒディアーズのような存在とも、レドや船団の人々は「共存の道」を選んだ、ということですね。
村田 そうです。ヒディアーズの場合は、人間の意志で人体を改造してああいう形になっていきましたけれども、結局のところ、同じ人間が、ハードテクノロジー派と人体改造派に分裂して戦争が始まって以降、お互いにちゃんとしたコミュニケーションをとろうとしない状態が続いていたということです。
だから、双方とも「人類のあり方としてどんな方向性があり得るのか?」ということを、まだお互いに擦り合わせをしていない状態なんですよ。そこが大きな溝になっているんですね。
―― 両者がコミュニケーションすることで、両者の「擦り合わせ」ができる可能性があるということですか。
村田 はい。さっきお話しした20世紀的対立と重なるんですが、二項対立のままではお互いに共存できないし、「この先どういったあり方がいいのか」という人類の進化にもつながらない。人間が本当の意味で前に進むことはできないと思うんです。
知性と技術はイコールじゃない
―― 人類銀河同盟のような、食事を栄養摂取としかとらえないテクノロジー依存も、ヒディアーズのような生命維持特化も、どちらも極端でした。監督ご自身は、テクノロジーと自然のどちらに重きを置いたらよいとお考えですか。
村田 僕自身のスタンスは、バイオならバイオ、進化した技術があるならそれを使って、人類がもっとよく生きる道を模索するべきだろう、模索し続けなくてはいけないという考えです。
人類は、ほかの生き物にはない「知性」というものを備えられて形づくられています。科学者の発言などを聞いていると、人間の脳というのは、いま人類が知りうる限りで、この宇宙が自然に生み出した構造物のなかで最も複雑なものだということです。人間はそれくらい凄いものを持っているわけですよね。
ならば、この人間の持つ凄い脳の力を使って、ものごとを探求し新しい何かを生み出すというのは、この全宇宙のなかで人類にしかできないことだとも言えるわけです。そうである以上、その知性は極限まで生かさなくてはいけないと。そうしなければ勿体ないことだと、僕は考えます。
―― テクノロジーの発達が、人間本来の生を歪めてしまう可能性もありますが。
村田 技術の発達をコントロールすることもまた知性の役割だと思います。知性というのは、技術を生み出す力でもあるけれども、技術の進化があったときに、その進化した技術が「人間にとってどういう意味や価値があるものなのか」「どう使いこなすのが人類にとって一番良いのか」を考える力でもある。それが「知性」なんだと思います。
だから「考える」のを止めてはいけないと思うんです。考えるのを止めてしまったときに人類の進歩は止まるし、人類が持っている知性の可能性もそこで終わってしまうと思います。人間にものを考える頭がある限り、その可能性は残しておくべきだ僕はと思うし、探求は続けなくてはいけないと思います。
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