トランシーバーとイコライザーを搭載し
強引に高速化するThunderboltの構造
上の画像がThunderboltのコンセプトである。ThunderboltはDisplayPortとPCI Express、それにいくつかのGPIO(General Purpose I/O:汎用I/O)をまとめて扱えるような仕組みである。具体的にはどんな方法でこれを実装したかを説明する。
下図は、DisplayPortのケーブルの構造だ。DisplayPortケーブルそのものはMain link 0~3という4対8本の信号線と、制御用のAux(1対2本)、ホットプラグ検出用信号(1本)、それに3.3Vの信号供給線+GND(6本)の合計20本の信号線からなる。
映像信号や音声信号が流れるのはMain linkで、後は必要とされる帯域に応じてMain linkが1/2/4本と切り替わる。信号速度はlinkあたり1.62Gbpsもしくは2.7Gbps(DisplayPort 1.1の場合)で、その後登場したDisplayPort 1.2では最大5.4Gbpsと速度が倍増されている。
基本的にはDisplayPortそのものは単方向(PCなどからディスプレーに出力するのみ)という構造になっているのだが、Thunderboltはこれを変更し、10Gbpsの双方向リンクを2本通した。構造としては図2のようになる。
ちなみに各チャンネルの速度は、それぞれ10Gbpsまで引き上げられているため、DisplayPortの2倍になる。もちろんこれが問題なく通せるわけもない。
もともとDisplayPortでは、ケーブルの価格をなるべく低く抑えるため、そこから逆算して1.62Gbpsや2.7Gbpsの速度で抑えることを前提に、4対のMain linkという構成を取った節がある。
この程度の速度であれば、普通のケーブルの作り方でもそれなりに信号が伝送できるし、送受信側もPCI Express Gen2以降のようにプリエンファシスを強化したり、Gen3以降のようにイコライザーを複数組み合わせたりしなくて済むという目算があったようだ。
さすがにマルチストリームや超高解像度に対応するDisplayPort 1.2のHBR2(High Bit Rate 2)モードでは信号速度を引き上げざるを得ず、多少ケーブル価格は上がってしまったが、それでもまだ常識的な範囲である。
Thunderboltは、このHBR2のさらに2倍の速度である。こうなると、通常のケーブルではせいぜい数十cmが限界で、到底実用に耐えない。
このケーブル問題を力技で解決したあたりがアップルらしい。Thunderboltは、ケーブル内にトランシーバーとイコライザーを搭載、無理やり信号を通すという技を繰り出した。
普通に伝送すると信号波形が鈍りすぎて使いものにならないが、これをダイナミックに補正してくれるというものであるが、当然こんなことをすれば高コストになる。実際にAmazonで調べても、1.8mのDisplayPortケーブルが1000円そこそこなのに、1mのThunderboltケーブルは3000円を超えるあたり、いかに高いか理解できるだろう。
さらには消費電力もすごい。IntersilのISL37231という、GN2033と同じ働きをするコントローラーの場合、消費電力は“わずか”500mW未満である。これがThunderboltケーブルの両方のコネクターに入るため、ケーブル1本で1W近い消費電力になるわけだ。
普通の感覚だとこういう無茶はやらないものだが、これを押し通してしまうあたり、さすがアップルだ。少なくともインテル単独では、絶対この構成はありえなかっただろう。
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