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ロードマップでわかる!当世プロセッサー事情 第208回

x86だけでなくARMの市場を狙うAMDのサーバー向け戦略

2013年06月24日 12時00分更新

文● 大原雄介(http://www.yusuke-ohara.com/

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Piledriverの改良品
「Warsaw」(ワルシャワ)

Warsawの概要。ここでは12/16コアの製品のみ、つまりOpteron 6300の後継であるマルチチップモジュール構成が挙げられているが、6/8コア製品が出るかどうかは現状はっきりしていない

 まずWarsawコアだが、基本的には既存のPiledriverベースの製品の延長にある。だがWarsawはPiledriverと何が違うのかを説明会で質問したものの、明確な回答は得られなかった。性能/消費電力をさらに向上するということは、つまり「同じ動作周波数ながら若干消費電力を下げた製品」ないし「同じ消費電力で若干動作周波数を上げた製品」が投入される程度と思われる。

 説明会では拡張命令についても若干言及があったが、具体的に新拡張命令(例えばHaswellで投入されたAVX2)をサポートするかどうかは不明なままであり、筆者の個人的な推定としては「ない」と思う。新しい拡張命令をサポートするためには、少なくともデコーダー部に手を入れる必要があるが、今のAMDにそうした作業を行なう体力はなさそうだからだ。

 ちなみに上の画像に出てきたAMD Open 3.0というのは、元々はOpen Computing Project(関連リンク)と呼ばれる仕様がオープンになったハードウェア構成である。Open Softwareのハードウェア版と考えれば理解が早いかもしれない。

AMD Open 3.0の概要。これはOEMベンダーがそのまま使えるので、TyanやQuantaといったメーカーがこれに沿ったボードを製造する。AMDは製造・販売をするわけではなく、あくまでも設計を公開するだけだ

 具体的な仕様はこちらで公開されているが、ここでは単に製品の仕様だけでなく、実際にその仕様に沿ったマザーボードを製造するためのプリント基板の設計図や回路図などの情報も公開されている。

 AMD Open 3.0というのはAMDがこのOpen Computing Projectに提供した最新版にあたり、2P構成でトータル24枚のDIMMを装着できるスペックになっている。1U~3Uサーバーまで同一のマザーボードで構成できることがウリであり、WarsawはこのAMD Open 3.0に最適化したというのが同社の説明である。

 しかし、AMD Open 3.0そのものはともかくとして、Warsawがこれに最適化というのはあまり関係ない。既存の「Opteron 4300/6300」シリーズでも問題なく利用できる。実際AMD Open 3.0のスペックを読むと、既存のプロセッサーの名前がずらずら出てくるわけで、これはWarsawがあまりに新味がないので、せめてAMD Open 3.0と組み合わせてそれらしく見せただけ、と判断して良いだろう。

KaveriのOpteron版
「Berlin」(ベルリン)

Berlinのブロックダイヤグラム。SCH(System Controller Hub:AMDの言うところのFCH)は別チップとなる

 次はBerlinである。Berlinは上の画像で示すように、Steamrollerコア×4とFCNベースのGPUコアを搭載したシステムオンチップである。これは1Pサーバー向けとして現在の「Opteron 3300」シリーズの後継製品として2014年の前半に投入される。

 これはなにかというと、Kaveriである。Kabiniが「Opteron X1150/2150」として投入されたのと同様に、Kaveriもデスクトップと併せてOpteron向けとしても投入されることが明らかにされたわけだ。ちなみにKaveriとの違いとしてECCをサポートすることが挙げられていたが、逆に言うとその程度の違いしかない、ということでもある。

Berlinの概要。Kyotoと比べてDRAM容量が2倍というのは、単にDDR3を2ch接続できるというだけのこと。あくまでサーバー向けのBerlinの紹介ということで、こうした比較が行なわれた

 そのBerlinの詳細スペックが上の画像だ。現状ではまだ動作周波数などは一切公開されていないが、GCNをベースとし、Shaderが512個の構成であることが明らかにされたのは新しい。512個というのは、構成的には「Radeon HD 7750」に近い。GCNの場合、CU(Compute Unit)と呼ばれる塊で管理されるが、1つのCUは64個のRadeon Core(要するにシェーダー)から構成される。なのでBerlinは8CUで構成されるものと思われる。

 現世代のTrinityや先日発表されたRichlandの場合、VILW4ベースのGPUコアで、SP(Stream Processor:やはりシェーダーのこと)を384基搭載する。単純にシェーダーの数が30%強追加されている。

 また同一構成だとGCNベースのGPUが2~5割ほど、VILW4ベースのものよりも高速に動作する(幅があるのは他にも色々な要素があるため)から、単純に考えてもKaveri世代のGPUは現在のTrinity/Richland世代よりも50%以上はGPU性能が上がると期待してもよさそうに思える。そしてBerlinはついにPCI Express 3.0に対応することが明らかにされたので、KaveriもやはりPCI Express 3.0に対応することになるだろう。

 問題になるのはこのKaveriの登場時期だ。連載207回の最後でも、「2013年中の出荷は難しい」と書いたが、今回Berlinの出荷が2014年前半と表明されたことで、これが裏付けられる結果となった。

KaveriのPGA版とBGA版

 もちろんデスクトップ/モバイル向けがやや先行し、サーバー向けは後追いになるのかもしれないが、KaberiベースのKyotoがデスクトップ/モバイル向けとほぼ同じタイミングで登場している以上、やはりデスクトップ/モバイル向けも2014年前半中、と見るのが妥当なのではないかと想像する。

 この発表でもう一つ確認できたのは、SteamrollerベースのOpteronやAMD-FXは、相当遅れるということだ。WatsonはPiledriver-refreshである。refreshが入る場合、平均すると丸々1年遅れるというのはBrazos 2.0やRichlandで実証済であり、普通に考えると早くても2014年末になる計算だ。

 やはりAMDはKaveri/Berlinの物理設計を優先して、Steamrollerそのものは後送りにしたのだろう。前回も書いたとおり、PS4やXbox Oneの物理設計も並行に動いているし、さらに後述するSeattleも控えているから、これらが一段落するまで設計陣の手は空かない。となると、実際にSteamrollerの物理設計にかかれるのは早くて2014年中旬になる。

 幸いにKaveri/BerlinでCPUモジュールそのものの物理設計は終わっているため、あとはメモリーコントローラーやシステム インターコネクトを作り直して組み合わせれば済むから、新規に全部作り直すほどの時間は必要ないと思われるが、それでも半年かそこらはかかるだろう。運が良くても2014年中にサンプルが出る程度で、だからこそAMDもWatsonで2014年中はこらえる決断をしたものと考えられる。

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