モバイルOSの激動期が続きそうだ――2月末のMWCでいくつかの新モバイルOSが名乗りを挙げた後、先週はGoogleのAndroidトップ交代が発表された。AndroidがモバイルOSのトップとして君臨してわずか1~2年足らずで、生みの親が手を引く。一体なにが起こるのだろう?
突然のトップ交代、生みの親が退任
これはポジティブな意味合いがあるのか?
3月13日、GoogleのCEO、Larry Page氏自らがAndroidの責任者交代を発表した。Android生みの親のAndy Rubin氏に代わって、Chromeを統括するSundar Pichai氏がAndroidも率いるという。モバイルOSで最大のシェアを持つAndroidの勢いは当面は安泰に見える(Firefox OSなどの新OS搭載機種が今年後半に出そろうとしても)なか、突然とも言える発表だった。
AndroidはGoogle社内から生まれたのではなく、Rubin氏が創業したAndroid社をGoogleが買収。Googleの一員となったRubin氏がその傘の下で大きくしていったという経緯を持つ。生みの親、育ての親であるRubin氏がAndroidを簡単に手放すようには見えないこと、Rubin氏自身が発表したのではないこと(Rubin氏はパートナー企業には手紙で説明しているが)などを考えると、“すっきりしない”感が残る。
翌日には地図とコマース担当トップのJeff Huber氏の人事異動も明らかになったことから、再編の一部といってしまえばそれまでかもしれない。だが、Huber氏については次は“Google X“というプロジェクトに移ると発表されているが、Rubin氏は不明のまま。Huber氏と同じGoogle Xに行くのでは? と多くの人が予想しているが、GoogleおよびRubin氏からの発表がない中で憶測の域を出ていない。ちなみに、Google Xとは、Page氏とともにGoogleを創業したSergey Brin氏が率いるチームで、Googleの中でもメガネ型コンピューターの「Google Glass」や自動運転カーなど最先端の技術に取り組んでいる。
Page氏は交代を告げるブログでRubin氏の功績をねぎらい、「Andy, more moonshots(月ロケット発射のほか、特大ホームランなど桁外れの本塁打を意味する), please!」と新天地での活躍に対する期待を表した。Wall Street Journalらが掲載したRubin氏によるパートナーへの書簡では、「根っからの起業家」と自分自身を形容している。
全盛期真っただ中のAndroidだが
懸念事項も残されている
Page氏によると、Androidのアクティベーション台数は累計で7億5000万台以上に及ぶという。60社以上のメーカーがAndroidを採用しており、Androidの上で動くアプリは250億を超えている。世界スマートフォン用OSでは2011年にトップに、その後もシェアを伸ばし7割前後に達している。タブレットでもやっとシェアが増え始め、2013年にはiPadを超えるとする予想もある。
だが、課題がないわけではない。たとえば、数年越しの問題である特許係争。防衛策だったはずのMotorola Mobilityの買収は2012年5月に完了したが、成果が出ているとはいえない。
中国市場も頭痛の種だろう。Androidの公開されているコードをベースにさまざまな独自OSが生まれており、その多くが通常のAndroidとは異なり、Googleのサービスを持たないまま端末として消費者の手に渡っている。中国はすでに世界最大のスマートフォン市場となっている。さらには3月に入り、中国政府工業情報化部(MIIT)が中国におけるAndroid依存を懸念しているとする報告書を発表した。Googleとの緊張は高まるばかりだ。
これらに加えて、AndroidエコシステムにおけるSamsungのパワーが強くなりすぎている点もある。スマートフォンではSamsung以外のAndroid端末メーカーはどちらかというと苦戦している。もし、同じく無料であるFirefox OSなどの新規参入組にエコシステムができはじめると、新しさや差別化(とオペレーターとの関係強化)を求めてあっという間にSamsung以外のメーカーがそちらに流れていく可能性もゼロではない。それはAndroid自身が経験してきたことでもある。
一方、そのSamsungすらもTizenという持ち札を用意しつつある。ひょっとすると、端末メーカーとAndroid/Googleとの関係は、思っているよりももろいのかもしれない。
そう考えると、絶頂期を見せつけたSamsungの「GALAXY S 4」発表前日にAndroidのトップ交代というのは、後々に一つの転換点として語られるのかもしれない。
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