防衛機密の塊である艦内を練り歩く
配管が縦横に走る通路を進み、いくつものハッチを潜り抜けた先に待っていたのは、たくさんのパイプイスが整然と並べられた広い部屋。ここは「多目的区画」と呼ばれ、艦隊任務の際には護衛隊群の司令部要員が、そして災害時には災害対策本部として機能するようになっている。ちなみに、この区画と同じ第2甲板には艦の指揮をつかさどるCIC、それに旗艦用司令部作戦室(FIC)もあるそうだが、そちらは防衛機密のかたまり。当然、今回も内部を見ることはできなかった。
多目的区画が一杯になったところで、本日の訓練の説明開始。「いせ」艦長の星山良一一佐がマイクを握り、ディスプレーに映し出された「いせ」のデータをもとに説明を加えていく。本日の訓練は、海自呼称で“傷者収療移送訓練”。艦外よりヘリで移送されてきた負傷者を、その緊急性にあわせていくつかのグループに分け(トリアージ)、応急処置の上で後方の医療機関へ送り出すという、「いせ」を災害時の後送拠点として運用するための訓練だ。
質疑応答では内容に応じた部署の代表者が答えていく方式だったが、質問していたのはDMAT(災害派遣医療チーム)の医師や救急救命士が多かった。常に大規模災害と隣り合わせの活動となるDMATゆえに、自分たちの活動と直結する「いせ」の能力には並々ならぬ関心があるようだ。東日本大震災でも現地に派遣されていたらしく、彼らの服装の多くに「オペレーション・トモダチ」のパッチが縫い付けられていたのが印象的だった。
この質疑応答では、現在の海自の災害派遣における構造的限界も露呈することとなった。災害派遣経験のある医師より出された「後送医療拠点としてこの艦を運用する際に、自治体や医療機関など陸上との連絡手段は確保されているのか?」という質問に対して、その回答は「通常の通信体系と自衛隊通信はその周波数が異なるため、現在はNTTの電話回線を利用した連絡しかできない。陸上の医療施設との災害時無線通信手段を確保したいが、そのための周波数の使用許可がなかなか下りない」というものだった。
つまり現在の通信体系では、陸上の民間施設と艦の間の直接的な連絡手段はNTTの衛星電話回線しか無く、もしNTT回線に壊滅的な損害が生じた場合、海自側で陸上に通信担当者と装備を派遣するか、横須賀の海自司令部を介するしか通信手段が無いということだ。省庁の枠を超えた方策を、筆者としては心より期待したい。
説明の後、参加者はいくつかのグループに分かれて、いよいよ艦内見学へ。海自最新鋭の護衛艦を見学できるとあって、参加者はいずれも興味津々といった感じだ。筆者のグループは、まず、多目的区画と同じ第2甲板にある医務室から見学をスタートさせた。