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Winny開発者・金子 勇氏、担当弁護士 壇 俊光氏に聞く

逮捕から8年、やっと“一歩前進”――「Winny」無罪確定で

2011年12月23日 12時00分更新

文● 盛田 諒/ASCII.jp編集部

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「著作権」「通信技術」が混在する法廷

―― 京都府警が金子さんに逮捕状を出したのはもう8年前ですね。

 2003年11月27日、金子さんのところに捜査が入ったんです。別の事件(Winnyを使用した著作物の違法アップロード)があり、正犯を逮捕するというとき、Winnyのソースコードが必要だという、いかにもこじつけの理由で。

金子 ウチには3回も来てるんです、警察が。「また来た……」って感じで。来るたびにパソコン持っていくもんですから、何台持っていくんだ、また買わなきゃいけないのか、困ったなー、みたいな。

Winnyが公開されたのは2002年。同じくP2Pファイル共有ソフトの「WinMX」をもじり、「M→N、X→Y」で「Winny」という名称になった

―― 容疑は「犯罪幇助目的」だったと、判決が出たのが……。

 地裁の判決が2006年12月13日です。罰金150万円でした。その日のうちに控訴して、そこから高裁の第1回期日まで2年開きます。2009年の初めにトライアル(事実審理)が始まり、5月に「進行協議期日」と言って、検察官と弁護側が両方Winnyについてプレゼンをしたんですね。

金子 (Winnyが)何だか分かんないから説明してくれって感じだったかと思います。

 検察官はJASRACの京都支店に行って、京都府警犯罪対策室のおまわりさんが、一生懸命マンガとかをダウンロードしようとするわけです。これやって何の意味があるの……とか思ってたんですけど、おまけにポートが空いてなくて、何も落ちてこない状況で。30秒で全部タイムアウトするんです。

金子 こっちも見てて、「ああ、切れるよね、うん……3、2、1、ハイ切れた」って。

 で、検察側が2時間くらいずっとそれやってたんです。

WinnyなどP2P経由のファイル共有ソフトを使うためにはネットワークの設定から転送ポートを開放する手続きが必要

―― 弁護側はどんなプレゼンを?

 実際に裁判所の会議室にパソコン5台を持ちこんで、ハブとルーターでつないで疑似ネットワークをつくって、実際にこっちでファイルをアップしたらどうなるかとか、多重ダウンロードとか実演したんです。著作権とまったく関係なく、これはあくまでデータの通信技術なんだ、ただのツールなんだという話をずっと説明してたんです。

―― 通信技術の説明はそれだけしっかりされていたわけですよね。それでも話がこじれたのはなぜだったんでしょう?

 ACCSさんが作った資料がめちゃくちゃで、原審は、それで有罪になっちゃったところもあるんですよ。

―― どこが“めちゃくちゃ”だったんですか?

 「あなたが今までダウンロードしたものを3つ書いてください」と、ファイル名をアンケートで書かせるんですよ。で、それを著作物かどうか判断して、「著作権侵害だ」ってやるんですよね。そのアンケートをとった結果、92%が著作権侵害だったと。だからWinnyで流通しているファイルのほぼすべては著作権侵害だと。

 「それじゃユーザーが覚えてるファイル名しか書かないんだからそうなるわ」ということで、高裁では経済学者の田中辰雄准教授に来てもらい、「アンケート資料は論外だ、実際は4割弱程度だった」と証言してもらったんですね。その後、ACCS自体が2007年にサンプリング調査をしたんです。そうしたら著作権侵害と思われる割合が全体の47%くらいになって。2008年にはさらに下がって45%とかになって、だったら最初の92%って何だったんだ、そんないい加減な資料で、人の人生左右するんじゃねえって。

 そういうこともあって2009年10月8日に高裁から無罪判決が出たわけです。そこで検察官が上告して、こちらも上告に対して「それは上告理由になってない」と書面を出して、そこから1年半が経って、今に至るというわけですね。

田中辰雄准教授 : 慶應義塾大学経済学部。2005年、NTTドコモ「モバイル社会研究所」で「Winnyは音楽CDの売上枚数を減らしていない」という旨の論文を発表し、話題を呼んだ

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