佐々木:「実はヘッドホン出力の搭載は、2世代前くらいから検討していました。ドルビーTrueHDなどHDオーディオが主流になり、高音質なBDソフトがたくさん登場していましたから。そして、ヘッドホン出力を採用するならば、バーチャルサラウンドも欲しいですよね」
ヘッドホン用のサラウンド技術は、ソニーがウォークマンやサラウンドヘッドホンで採用している「VPT」(Virtual Phones Technology)を採用する。
サラウンドヘッドホンの場合はヘッドホンも専用に開発されているが、BDZ-AX2700Tの場合はどんなヘッドホンを使っても良好なサラウンドが楽しめるようにチューニングされている。このため、設定メニューでオーバーヘッドかインナーイヤーかが選択できるようになっている。
こう書くと、インナーイヤーでは不足しがちになる低音再生を補なうなど、音色を調整するものと思われるかもしれない。ところが、実際には音色の調整などは行なっていないという。
オーバーヘッド型とインナーイヤー型では耳とユニットの距離が微妙に異なるため、サラウンド音場の聴こえ方が変わってくる。設定メニューでの切り替えは、そうしたサラウンド音場の再現を最適に切り替えるためのものだ。
インナーイヤー型と言えども、最近はかなり高性能なモデルが多いので、変に特定のスピーカーをイメージして、音質に変化を与えるようなことはしてないという。
実際にヘッドホンで聴いてみると、きちんとリアの音が後ろから再現される。イメージとしては頭の周囲に7.1chスピーカーが浮かんでいる印象で、スピーカーを使ったサラウンド音場と比べると多少空間が狭い感じはするものの、サラウンド感はしっかりとしているし、ホームシアターで頭を悩ますことが多いスピーカー間の音のつながりが良好で、シームレスに空間がつながる。
スピーカーによる7.1ch再生と比べるものではないが、深夜などの視聴には頼もしい味方になってくれるだろう。
また、ヘッドホン視聴で音が頭の中で定位している感じがなく、頭の外に音場が展開する感覚は、ヘッドホンが苦手な人にも好ましいと思うし、長時間聴いていても疲れにくい(筆者は10年ほど前までヘッドホンが嫌いだったが、その苦手意識を克服させてくれたのが、ソニーのバーチャルサラウンドヘッドホンだ)。
非常に有効な機能でもあるので、ぜひ全モデルに装備してほしいと思うくらいだ。いや、きっとこの開発経験を活かして、主力シリーズにもリーズナブルな形で継承されるはずだ。
テレビの地デジ化がほぼ完了となった現在、次はBDレコーダーの地デジ化と言われ、本格的な普及が始まっている。そのため、それまでは先進的なユーザーが注目しがちだった高級機より、一般的な価格のモデルへの関心が高まりつつある。
そうした時代に高級機としての魅力をアピールしていくのは難しいと思う。最上の画質・音質であれば、それでいいというわけではないからだ。その点において、画質にこだわる人がいじり倒したくなるような画質調整機能を盛り込むというのは、マニアにはうれしい。
さらに、しっかりとこだわったヘッドホン出力の採用は、マニアはもちろんのこと、この機能のために購入を考える人も出てくると思うほど便利なものだ。
BDレコが一般的な存在になるほど、こうした高級機が果たして存続できるかと心配にもなるのだが、それに対するひとつの解答がBDZ-AX2700Tに示されているように感じた。最高のものであるだけでなく、次々に新しい提案を盛り込めるのも高級機ならではの魅力だと思う。
今回の取材では、「新しい技術でひとつステップが上がると、次の景色が見えてくる。ノイズを消すと、別の問題が顔を出す。進化はずっと止まらない」という言葉が印象に残っているが、その時点での最高の景色を見てみたいと思っているユーザーは必ずいる。
今年は個人的にBDレコーダーを買い換えなければならない年(!?)のため、製品の見極めもかなり厳しくなっているのだが、それにも関わらず各社とも例年になく気合いの入ったモデルが登場しているように感じられる。まったくうれしい限りだ(買うのは1台なので、悩ましいところでもあるのだが)。
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