Androidの登場とともに飛躍したHTC
だが新興企業ゆえにターゲットにされている!?
数あるAndroidメーカーの中でも、HTCはいち早くAndroidを採用して成功したベンダーだ。それまでは「Windows Mobile」などのOSを使ってオペレーター向けに携帯電話を作成するOEM事業が主体だったが、Androidで見事にスマートフォンブランドとしての地位を確立した。2011年第2四半期(4~6月)の数字では、売上高は前年同期比104%増の1224億台湾ドル、純利益(175億2000万台湾ドル)も倍増させている。
同社のAndroid戦略の成功に大きく寄与したのが、独自インターフェース「HTC Sense」だ。業界での評価も高く、これにより頭一つ抜け出た感がある。たとえば調査会社CSS InsightのアナリストBen Wood氏は「スマホがどれも似てきた」とAndroidの差別化問題を指摘しつつ、例外としてHTC Senseを挙げていた。
スマホ市場が拡大し、Androidの勢いが増すにしたがい、特許訴訟の数も増えた。Nokia対Apple(和解済み)などAndroidが関係ないものもあるが、Android関連の特許訴訟を合計すると50件近くにのぼる(Muller氏の計算によると45件だそうだ)。そのうち、Google自体をターゲットとしたのはOracleのみで、多くはAndroidベンダーが標的となっている。
特許訴訟の多くが途中で和解にいたるが、和解条件でライセンス料支払いに合意するAndroidベンダーもある。HTCはMicrosoftと和解したが、HTCは販売するAndroid端末1台に対し5ドルのライセンス料をMicrosoftに払っているといわれている。
このように、法的なコストはばかにならなくなっており(MicrosoftはAndroidベンダーからの特許ライセンスで年間数億ドルを売り上げていると報道されている)、Androidの成長を阻害する要因になりかねない。なお、AppleとHTCも特許ライセンスを含む和解による解決に向けた作業を水面下で進めているかもしれないが、Muller氏はその可能性は低いと見ているようだ。
訴訟上、有力な武器となる特許の獲得を模索
GPUベンダーのS3 GraphicsがHTCの傘下に
特許訴訟問題が大きくなるとともに、Android/Googleが防御に十分な数の特許を持たないという弱みが露呈している。HTCをはじめAndroidベンダーの訴訟支援に乗り出すGoogleは、特許取得による対策を試みているが、競売に出たNortel Networksの特許6000件では見事に競り負けた。
同社の特許を45億ドルという大金で勝ち取ったのは、Apple、Microsoft、Research In Motion(RIM)、Ericsson、ソニーらのコンソシアムである。そしてAppleはこの取引でなんと半分の額に相当する26億ドルを投じていたことが明らかになった。Appleが特許ポートフォリオを強化したのに対し、Googleはさらに水をあけられた形だ。
そのGoogleは現在特許取得を目的に、無線技術企業のInterDigital社の買収に向けて動いているとうわさが出ている。
HTCも独自に動いている。7月8日にHTCはグラフィックスチップメーカーのS3 GraphicsをVIA Technologiesより買収することを発表しているが、これはほかでもない特許訴訟対策となる。というのも、S3 Graphicsは先にITCでのAppleとの特許訴訟で初期判定で勝訴しているからだ(なおHTC会長のCher Wang氏はS3にも出資している)。
それにしても、スマホが関連した特許訴訟の数は異常に見える。市場でのシェア争いが特許訴訟により決定するのだとすれば、それは残念なことだ。
筆者紹介──末岡洋子
フリーランスライター。アットマーク・アイティの記者を経てフリーに。欧州のICT事情に明るく、モバイルのほかオープンソースやデジタル規制動向などもウォッチしている
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