自己所有の端末を業務に持ち込むBYOD(Bring Your Own Device)という用語が、最近ちらほら聞かれるようになった。おもにデスクトップ仮想化を意識した用語だが、10年前からBYODを実践している弊社から、いくつかのアドバイスができそうだ。
BYODが当たり前だと思っていた
オンタイムを避けた昼以降の出社、Tシャツ・短パンをメインにする夏期のスーパークールビズなど、節電時代のワークスタイルをいち早く実践してきたASCII.jp編集部だが(笑)、最近IT業界で流行る「BYOD」も20年前から実現済みだ。
アルバイトで編集部に入った頃から、アスキーでは、社員、バイトと問わず、仕事で使うPCは私物が当たり前だった。間接部門や営業部はいざしらず、少なくとも編集部に関しては自分たちが欲しいPCを自腹で購入し、単純に見せびらかしたり、購入までの長い思考パターンを披露したり、ときにはロードテストまでやってしまうのが、アスキー編集者の矜持だったのだ。もちろんアルバイトの立場では、高価なノートPCは買えない。社員が持っているDEC Hi-Note UltraやIBM ThinPadを羨望のまなざしで眺めていた、20代の大谷であった。
このBYODスタイルが当たり前だったので、月日を経て同居人から「会社で使うPCを自腹で買うなんておかしい」と指摘されたのには実は相当違和感があった。長らく「普通、自分買うだろう」と思っていたら、やはりそんなことはなく、会社のPCは会社で買ってもらうのが当たり前らしい。でなければ、いまさら「自分のPCを業務で使おうぜ!」というBYODのアピールなんて必要ない。
といいながら、現在も業務で使うPCは自己所有のDynabookだ。そもそもゲームやプログラミングなどの趣味がないため、PCは業務以外ではほぼ使わない。とにかく記事を書くためにPCがあるので、自分で気に入っているPCのほうが能率が上がると感じている。遅いPCで仕事すると、原稿がさばけないと信じているし、バッテリが持たないと、業務時間を繰り上げないいかんな、とすら思っている。そう考えると、愛用するPCで仕事することを許された自分はとても恵まれている。Enterキーがはがれた一昔前の社用PCを使っている方を取材で見るたびに、つくづくそう思う。
もちろん、会社に同じ機種を買ってもらうという方法もあるだろうが、512GB SSDのようなリッチな構成が許されるかけっこう微妙だ。いずれにせよ、好きなPCを使えるというストレスフリーな環境は、業務にプラスになると言っておきたい。
5年間。BYODは悪だった?
とはいえ、BYODが会社に歓迎されてきたかというと、もちろんそんなことはない。個人情報保護法の施行や数多くの情報漏えい事件、そして持ち込みPCから感染したBlasterのような事件もあったため、2003年以降BYODは完全に悪であったといえよう。コンプライアンスの名の元、「私物PCの持ち込みは禁止。業務PCの持ち出しは禁止」といった「入り鉄砲に出女」的ポリシーが大企業では普通になり、アスキーでも自己所有PCの管理はずいぶん厳しくなった。編集部のカルチャーであるがゆえ、禁止にはなっていないが、セキュリティソフトのインストール義務づけ、自己所有PC使用の許諾請求や誓約書の提出、厳格なパスワード管理など、昔はなかったハードルがいくつもある。
と、そんな時代を経てからのBYODというITトレンドの登場だ。BYODは、デスクトップ仮想化やセキュリティ製品、クラウドなどの技術を適切に使って、自己所有のPCを使いつつ、私用と業務をセパレートした環境を構築しようというメッセージだと理解している。最初にこの言葉を聞いたのは、VDIを積極的に推進するシトリックスだったし、最近ではシスコやアルバのような無線LANベンダーもこの言葉をわりと多用する。
もちろんBYODが新しいソリューションを訴求するために作られたマーケティング用語であることは否定しない。しかし、個人的には、「エグゼクティブがiPadを業務で使うための方便」ではないかと疑っている。実際、ソフトバンクをはじめ、iPadを業務で使い、「ノートPCがいらなくなった」という人にけっこう会う。当然、肌身離さず持てるデバイスなので、業務でも私用でも使いたいと考える訳だが、そこにセキュリティの壁が立ちはだかる。こうした現状のなか、BYODがITの潮流になれば、誰にはばかることなく、iPadを業務で使えるわけだ。もし、これが真実の一部だとしたら、そこまでエグゼクティブを魅了したiPadは、やはりすごいデバイスだなあと感心せざるを得ない。
と、結局iPad礼賛みたいなオチになってしまったが、震災以降大きなワークスタイルの変革を余儀なくされる日本で、このBYODがどこまで受け入れられるか、かなり興味深い。
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