まつもとあつしの「メディア維新を行く」 第25回
アニプレックス 宣伝プロデューサー 高橋ゆま氏インタビュー(後編)
覇権アニメ請負人ゆま氏「僕らにはカツカレーしか残されてない」
2011年06月29日 09時00分更新
都知事の「ざまあみろ」には、悲しみと憤りを感じた
―― 中止をどう受け止めますか? ニコニコ生放送での田原総一朗氏との対談によれば、都知事は「ざまあみろ」とおっしゃったようですが。
ゆま 「東日本大震災という未曾有の災害に伴って、幕張地区の液状化現象や輪番停電、継続的な余震といったさまざまなことが起こりましたよね。その上で、あらゆる可能性を考慮して、世界一のコンテンツファンである皆様の安全や作品の未来を最優先に考えた上での中止決定だったので、あの決断は正しかったと思っています。
『ざまあみろ』というご発言に関しては……あえて言うならば、僕自身、都民としてアニメコンテンツにまつわる仕事をしているひとりの人間として、悲しみと共に憤りを感じました。
大事なのは、どこでどう開催するかという形の話じゃなくて、何をするか――ファンと作品の未来につながるかという中身――だと思ってます。その考え方の中で、たまたま今回は独自開催を決めただけでしかありません。
アニメや漫画が、日本が世界に誇るコンテンツ産業であるのなら、その未来につながる可能性が(中止によって)失われたことは、たとえ成り立ちがどうであれ、嘆きこそすれ、敵意を持つべきものではないと思います」
―― ACEの準備を通じて、ゆま氏が個人的に得たものはありましたか?
ゆま 「すべてが初めての経験だったので、良し悪し区別せず、全部の経験が代えがたいものでした。何より嬉しかったのは、ACE開催という大きなうねりを、日ごろはライバルである各アニメメーカーさん、そしてさまざまな作品のファンの皆さんたちと一緒に作れたことですね。
盛り上がりや祭り感というのは作品とファンと作品関係者との三人四脚でしか作れないものだと思っているので。イベントそのものへのご期待、そして約4万枚という前売り券のご購入など、ファンの皆さんからは本当に多くのものをいただきました。この場をお借りして、あらためて深く御礼申し上げます。
あとは、開催計画を進める中で初めてお話した方が大変多くて、その出逢いも自分にとって凄く大切なものになりました」
ACE2012開催はあるのか?
―― TAFは2012年に向けて始動したようです。ACEの2012年開催は?
ゆま 「今のところはまだ何も考えていませんが……そうですね、これから起こるであろうさまざまな状況の中で、ファンと作品、それぞれの未来にとって必要だと感じたら、またみんなで打ち合わせしようかなと思ってます。
大事なのは開催することじゃなくて、何をすることが必要で、どんな行動をとるべきなんだということです。そこを見誤らずに、あらゆる可能性を検討したいですね」
―― もう一度、総合プロデューサーに就任すると仮定して、ACEをどんな場にしたいですか?
ゆま 「やっぱりファンと作品、それぞれの明るい未来につながる場になれば良いなと」
―― 最後にアニメファンに向けてメッセージなどあれば。
ゆま 「いつものノリと比べて、やや真面目なインタビューになってしまったので、最後ぐらい言っておくと――2010年10月は『俺妹』で覇権を取ったので、これからも、引き続き取れるようにがんばります! また余計なこと言ったな、おれ(笑)。
まあ、何をして覇権かって、言ってる自分でもわかんないですけどね(笑)。何かまた新しい言葉が見つかるといいんですが。
なんだろうな。イメージとしては、わーっと、一番おっきな祭りを作るってことかな。僕はきっとお祭りの神輿担ぎなんですよ。神輿は作品やファンの皆さん。僕はその担ぎ手としてワッショイワッショイって一生懸命担いで、ずうっと皆さんに楽しんで頂ける様に、微力ながら頑張れればと思ってます。ですから『死ね』とか言わないでください(笑)」
著者紹介:まつもとあつし
ネットベンチャー、出版社、広告代理店などを経て、現在は東京大学大学院情報学環博士課程に在籍。ネットコミュニティーやデジタルコンテンツのビジネス展開を研究しながら、IT方面の取材・コラム執筆、コンテンツのプロデュース活動を行なっている。DCM修士。『スマートデバイスが生む商機 見えてきたiPhone/iPad/Android時代のビジネスアプローチ』(インプレスジャパン)、『生き残るメディア 死ぬメディア 出版・映像ビジネスのゆくえ』(アスキー新書)も好評発売中。Twitterアカウントは@a_matsumoto
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