XDR2でグラフィックメモリーへの採用を狙う
XDR DRAMに続いて、Rambusは「XDR2 DRAM」と「TBI」(Tera Band Initiative)というテクノロジーを発表する。XDR2 DRAMは当初、XDR DRAMをそのまま高速化するとともに、オプションで「MicroThreading」と呼ばれるランダムアクセス性能向上の技術を導入したものだった。ところが、途中でTBIの技術を全面的に導入したため、XDR DRAMと信号線の互換性がなくなってしまった。
TBIとは1TB/秒のメモリー帯域(TBI)を実現するための技術であり、これを実現するためには、さらに高速なデータ転送が必要とされた。そのためXDR2では、XDR DRAMの4倍にあたる「32X Data Rate」(クロック信号の32倍速)を実装する予定だった。最終的にXDR2は、クロック信号の16倍速(16X Data Rate)に落ち着いている。
またXDR DRAMでは、クロック信号とデータ信号のみがディファレンシャル方式で、Address/Command信号はシングルエンド方式だったのに対し、TBIではAddress/Commandもディファレンシャル方式に切り替えている。さらに、XDR DRAMの中核技術であったFlexPhaseは「Enhanced FlexPhase」に進化して、より多くの機能と高い精度でのタイミング調整を可能としている。
こうした機能を盛り込んだ結果、XDR2 DRAMは10Gbps以上を狙うメモリー技術となった。2010年4月の時点では12.8Gbpsという数字が示されていたが、2011年2月の発表では20Gbpsでの動作デモも行なわれており、性能にはかなりのゆとりがある。
もっとも、この動作デモはあくまでメモリーコントローラーと基板のデモであった。メモリーチップはXDR2 DRAMの動作をエミュレートするシリコンチップが利用されていただけで、実際のメモリーチップが20Gbpsで動作するのかは、メモリーベンダー側の情報が出てこないと何ともいえない。
RambusはXDR2 DRAMでは、明確にターゲットを切り替えている。もともとXDR DRAMはPS3以外にも、主にデジタルテレビなど多くの家電に採用されており、国内でも結構な実績があるという。だがこれ以外にも、グラフィックカード向けへの採用を狙っていた。特に最初の製品としてRambusが狙っていたのは、インテルの「Larrabee」である。第1世代のLarrabeeはGDDRベースの製品を目指していたが、これに続く第2世代のLarrabeeでは、XDR DRAMが採用されるという見通しだった。
ところがご承知のように、Larrabee自身の製品化がキャンセルされてしまい、第2世代どころの話ではなくなってしまった。一方で前回説明したとおり、一般的なGDDR系も頭打ちが明確になってきており、次世代の「GDDR6」がどうなるのか当面はっきりしない。そこでRambusは、「GPUに特化した」と言えそうなメモリーコントローラーを提供するという形で、XDR2系の導入を狙っている。
このメモリーコントローラーは、GDDR5とXDR、およびXDR2の3種類のメモリーを同一のインターフェースで扱えるというもの。前回も触れたとおり、このメモリーコントローラーを使うとGDDR5のプロトコルのままで、12Gbpsまでの転送が可能になる。そこでまずはこのメモリーコントローラーをGPUベンダーに採用してもらい、当初はGDDR5をぎりぎりまで高速動作させるかたちで使ってもらおうという案だ。
一度メモリーコントローラーに採用されれば、そのまま(ピン数すら変えずに)XDR DRAMやXDR2 DRAMへの移行が可能になる。既存のXDR DRAMでも7.2Gbpsの転送が可能だし、XDR2 DRAMでは10~20Gbpsの転送が狙えるので、GDDRの帯域飽和により性能の頭打ちが懸念されるGPUには申し分ない選択肢である、というのがRambusの描くプランである。
もっともこれは、あくまでRambusが描いているプランであり、AMDやNVIDIAは、今のところJEDECの標準メモリーを使う姿勢を崩していない。世代的に言えば、次の28nmプロセスを採用するハイエンドGPUでは、おそらく両社ともシェーダーを倍増させてくる。これは6Gbps超のGDDR5を、384~512bit幅で接続すれば対応可能な範囲である。
ただその先、2012~2013年以降に投入される20nmプロセス世代になると、こうした力技では対応が難しいだろう。このあたりは、20nmプロセスが(製造を担当するTSMCの言うとおり)本当に2012年中に立ち上がるか、という問題とも絡む。場合によっては40nmプロセスの時と同じく、28nmプロセスで2世代のGPUが出てくる可能性もまだ除外できない。
だが順調にプロセス移行が進んだ場合は、2011年中に次世代GDDRの方向性が固まり、2012年中にサンプル出荷が始まるくらいでないと間に合わないことになる。これが間に合わないと、ひょっとするとGDDR6までの中継ぎとして、XDRやXDR2がグラフィックスカード用メモリーとして採用される可能性はあるだろう。
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