海外販売の売上はピーク時の半分に
―― ネット上でも「アニメが儲かっていない」ことに対してユーザーからの関心も高まっています。当然、「ネットで売上を増やして、クリエイターにもっと還元されるべきだ」という意見も聞かれるわけですが。本来はこれだけ海外でも人気があるわけですから、やはり海外での売上がもっと増えなくてはいけないはずですね。
増田 「日本のアニメの人気は高まっています。ところが皮肉なことに売上は下がり続けており、その打開策が見つからない」というのが矛盾した現実ですね。
アニメの海外展開の成功事例としてよく挙げられる「ポケットモンスター」(ポケモン)は、世界百数十ヵ国、つまり国連に加盟している国々のほとんどで放送されており、2000年代前半にとてつもない売上を記録しました。
ところが、世界的に見て日本のアニメで現在一番人気のあるのは「NARUTO」ですが、その人気の割には高い利益が得られたという話を聞きません。
作品契約数国別トップ10 | |||
---|---|---|---|
順位 | 国名 | 契約数 | 地域 |
1 | 台湾 | 131 | アジア |
2 | 韓国 | 95 | アジア |
3 | イタリア | 75 | 欧州 |
4 | アメリカ | 72 | 北米 |
5 | 中国 | 69 | アジア |
6 | フランス | 67 | 欧州 |
7 | 香港 | 64 | アジア |
8 | タイ | 62 | アジア |
9 | カナダ | 56 | 北米 |
10 | コロンビア | 54 | 中南米 |
出典:日本動画協会調査/アニメ産業レポート2010 |
ポケモンはグッズ、そしてやはりゲームの売上によるところが大きかったのですが、翻ってNARUTOは映像が主体です。その映像をフリーで見られてしまうとビジネスが終わってしまう。作品の多くは、人気があって知名度も高いけれど、ビジネスの規模が全然大きくならない、という状況です。
海外テレビ局への放送権料はそれほど高くないので、その後のDVDなどの「二次ビジネス」で収益を上げなければならない。しかし、そうなっていない。NARUTOくらいの人気があればビルの1つや2つ建ってもおかしくないはずなのですが。
「アニメ産業レポート2010」で明らかになった動画協会会員の海外販売売上の直近の数字は、83.2億円であり、2002年の調査開始以来最悪。2006年のピーク時の半分です。
主な原因は、やはりネットでの無料視聴もありますが海賊版商品も大きい。海賊版と言えば中国、というイメージが強いのですが、JASRACによればヨーロッパ諸国で流通しているほとんどのアニメ関連商品が海賊版だったという調査結果もあります。海賊版を流通させている人たちは大いに儲かっているのかもしれませんが……。
海賊行為とどう向き合うか?
―― 作品の拡がり方からすれば、それこそハリウッド映画に匹敵するくらいの人気があるにも関わらず、その人気をお金に転換できていないということですね。ハリウッドメジャーは、海賊版に対して非常に厳しい態度で臨んでいますが、日本のアニメ企業はなぜ徹底した対応が取れないのでしょうか?
増田 もうそれは単純に「徹底した取り締まりができるほどの企業体力がない」ことに尽きます。たとえば、おそらくディズニーが年間に海賊版対策に使うお金と、日本のアニメトップ企業の売上がほぼ同規模のはずです。
日本でハリウッドメジャーと同様の対策が取れるのは任天堂くらいじゃないかと思います。1兆円単位の売上がないと、コンテンツを世界規模で展開するのはそもそも難しいと思いますね。
―― 映像の無許諾配信を続ける“ファンサブ”(日本のテレビアニメをファンが字幕を付けて配信するサイト)に対しても、警告書を送るようなことまではできても、実際に費用をかけて訴訟を起こすまでには至らないということですね。そんな中、逆に「ファンサブに対して配信の許諾を与えてはどうか?」という意見もあります。
増田 許諾を与えて、彼らを取り込むことは「Crunchyroll」などが例に挙げられますが、商慣習を含め彼らとのビジネスが成立するかどうか疑問です。またユーザーのニーズを考えると、放送とほぼ同時が望ましいですが、サブタイトル等の制作を考えるとハードルがあります。
―― Crunchyrollが行なっているような、ほぼサイマルでの配信が必要ということになりますね。
増田 そうです。
―― ファンサブに対して許諾を与えることによって、他の不正ファンサブが存在意義を失うことに対する期待もあったと思います。
増田 ただ、たとえ許諾を与えられたファンサブより多少遅くなっても、フリー(無料)で視聴できたほうが良いというユーザーもいます。本当は許諾を与えられたファンサブが自分たちのビジネスを守るために、他の無許諾ファンサブを取り締まってくれることへの期待がありました。
しかし、現実にはそうはならなかった。余裕がないのは彼らも同じなんです。
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