連載「メディア維新をいく」でアニメを取り上げたその初回に次のようなデータを紹介した。
アニメーションの業界団体である、日本動画協会のデータベースワーキンググループがまとめたものだ。動画協会加盟団体の売上推移をまとめたこのグラフからいくつかの傾向を読み取ることができた。
- ビデオグラム売上の落ち込みが激しい
- 一方、劇場の売上は伸びている
- 商品化や配信の売上も伸びている
- しかしそれらの伸びは、全体の落ち込みを補うには至っていない
劇場・配信の売上が伸びているにも関わらず、全体の売上は落ち込んでいること、そしてその傾向は海外販売でより顕著に表れていることも別のデータで示されている。
今回はこのデータをまとめた増田弘道氏に話を聞く。増田氏は、1979年にキティレコード入社後、アニメ・出版に携わり、2000年にはマッドハウスの代表に就任、現在は動画配信を主な事業とするフロントメディアの取締役である。
氏が座長を務める日本動画協会データベースワーキンググループは、先月、「アニメ産業レポート2010」を発行している。最新のデータを紹介しながら、アニメビジネスの現状を改めて眺めたい。
現状、アニメのビジネスモデルが機能していない
―― 業界各所からの反応も大きかった「ブラック★ロックシューター」「イヴの時間」のような新しい取り組みは一部あるものの、大多数の作品はテレビ放映からDVD・Blu-rayによる回収です。2008年までと2011年現在を比べたとき、状況は変わったのでしょうか?
増田 かつて有効だったビジネスモデルが機能しておらず、新しいビジネスモデルもまだ打ち立てられていない。現在模索中である、というのが現状だと思います。
巷で期待視されることが多い配信の分野について考えてみましょう。
ニコニコ動画での公式配信の好調も伝えられますが、あくまでもニコニコ動画の収益源は土管(配信に掛かる料金=プレミアム会員からの月額収入)です。
先月に公開され、ネット上でも話題を集めた、慶應大学の田中辰雄准教授の論文「ネット上の著作権保護強化は必要か―アニメ動画配信を事例として」では、YouTubeでの無許諾配信がビデオグラムの販売にポジティブな影響があるとしていますが、もうそんなことも言ってられない状況だと思います。私は懐疑的です。
増田 アニメに限らず、映像コンテンツ全般の収益力が下がっており、日常的に行なわれている無許諾配信によってメリットがあるとはとても言えない状況だからです。「涼宮ハルヒの憂鬱」や「化物語」のような大ヒット作品であれば話は別ですが、そもそもそういった作品は無許諾での配信の有無にかかわらず売れるものです。
田中先生の分析は主に「米国における消費」に比重があるように感じます。基本的に大人向けアニメ作品のテレビ放映がない国では確かに有効かも知れません。アメリカでは、ネットに触発されて人気が出るというのはごく自然なことです。
しかし、そこにはビジネスモデルがなく、その国にヒット作をマネタイズできる商品やサービスがある作品を除いては、“見られてそして終わり”ということになってしまいます。
テレビ視聴に比べて母数が少ないネット視聴においては致命的なことです。
―― フロントメディアのように、オンデマンドで都度課金という形であれば、配信ごとのコストは回収できるため、赤字にはなりにくいものの、逆にいえばテレビのように広く認知してもらうメディアにはなり得ないですね。
増田 そうですね。わたしたちの事業は今のところファーストウィンドウではなく、いわばレンタルビデオショップのような位置付けです。「店舗と在庫がない」という違いはありますが、既存のビジネスの延長線上にあるものですね。
かといって既存の事業者が簡単にできるものではなく、IT技術や、モバイルのマーケーティングを知り尽くしていないと成功は難しいと思います。
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