クアルコムのARMコアプロセッサー
携帯電話向けのチップを広く提供してきたクアルコムだけに、同社が提供する製品ラインナップは広い。クアルコムの場合、1998年に初めて提供した「MSM2300」というプラットフォームでは、まだアプリケーションプロセッサー無しのマイクロコントローラーだけだった。
それが、2000年に登場した「MSM3000」でARM7を搭載。それ以降は、2003年に登場した「MSM6500」や2004年の「MSM6550」で、ARM9を搭載している。2006年に登場した「MSM7200A」では、アプリケーション用のARM11にベースバンド用のARM9を組み合わせるという構成を、初めて採用した。
このMSM7200Aはかなり独自色の強い構成で、アプリケーション用に「ARM1176JZF-S」と同社独自のDSPである「QDSP5」を組み合わせて搭載。これとは別に、ベースバンド用にも「ARM926EJ-S」と「QDSP4」を搭載するという、デュアルCPU+デュアルDSPのなかなか重厚な構成だった。これに加えて、アナログの受動部品を搭載したコンパニオンチップ(RTR6285)と、電源管理ICを組み合わせれば携帯電話ができ上がるという、かなり携帯電話向けに特化した製品である。
これに続くのが、今をときめく「Snapdragon」シリーズである。Snapdragonに搭載されるのは、「ARM v7」アーキテクチャー準拠の独自開発プロセッサー「Scorpion」である。構造的にはデュアルイシューのアウトオブオーダー構成で、整数演算が10/12段、ロード/ストアが13段、FPUが23段のパイプラインで構成される。1GHz動作時に、2100DMIPSと8000MFLOPSの性能を発揮すると発表されている。
これはCortex-A8よりもやや高い性能で、ほぼCortex-A9並といったところだ。もっとも、Scorpionは2007年に開かれた半導体業界イベント「MPF2007」で発表されたものの、実際に搭載製品が登場したのは2009年のこと。当初のスケジュールからはやや遅れた感じだ。
このScorpionを搭載した第1世代が「QSD8x50」と、これからやや性能を落とした「QSD7x30」である。これらはまだ携帯電話での利用を想定してか、ベースバンド用に「ARM926EJ-S」が統合されていた。これに続いて登場した第2世代の「QSD8x55」では、ベースバンド用はDSPのみとなっており、ついにサブシステムのARM9が省かれるようになった。このあたりは、携帯電話以外での用途も考慮したもようだ。
そして、最新の第3世代「QSD8x60」では、ついにScorpionのデュアル構成を採用。これも携帯電話以外に幅広く利用されている。
ST-EricssonのARMコアプロセッサー
スイスのSTMicroelectronicsとスウェーデンのエリクソンが合同出資して、2009年に設立されたのがST-Ericssonだ。この会社は、これまで両社が携帯電話向けに提供していた製品やサービスを、ほぼそのまま引き継いで提供すると共に、新製品の投入も行なっている。そんなわけで、設立は新しい企業ながら、製品そのものは(特にエリクソンがこのマーケットに注力していたこともあり)以前から存在するという、面白いラインナップである。
ST-Ericssonの提供する製品も、やはりかなり数が多い。大雑把に分類しても、スマートフォン向け/フィーチャーフォン向け/エントリーフォン(低価格携帯電話)向けの3カテゴリーがある。ロードマップ図で言えば、「ARM v5」アーキテクチャー以前のプロセッサーに属する「T671x」は、TD-HSDPA/GPRS用のエントリーフォン向けに分類される低価格プラットフォームである。そのほかに、WCDMA/EDGE/GSM/GPRS用のチップセットも、おおむね「ARM926EJ-S」を搭載したSoCとなっている。
もっともST-Ericssonの場合、このカテゴリ分けはあまり厳密ではない。例えば、「T6717」というHSDPS用のベースバンドプロセッサーはエントリーフォン向けだが、上位モデルの「T6718」はフィーチャーフォン向けに分類されている。両者の違いは、CPUの速度が「312MHz対416MHz」とか、T6718はHSUPAに対応する(T6717はHSDPAのみ)とか、カメラの画素数が「3Mピクセル対5Mピクセル」といった具合で、その程度の違いしかない。
ラインナップであるが、スマートフォン向けに分類される製品の中でも、ローエンドが「U6715」である。CPUコアは「ARM926EJ-S」のままで、正直に言えば「スマートフォン向け」と呼ぶにはやや非力な構成である。実際型番も、先に触れたT671xシリーズの延長にあり、あまり魅力のある製品とは言いがたい。
しかしこの後に、同社は突如ARM11やCortex-A8を飛び越えて、Cortex-A9をデュアルで搭載する「U8500」チップセットを発表する。グラフィックス機能にはARMの「Mali 400」を搭載しており、一躍ハイエンドマーケットに躍り出た感じだ。
他社の製品と異なるのは、HSPAモデムをチップに内蔵していることだ。依然として同社は、U8500を携帯電話向け中心に考えていることがわかる。またU8500の後で、同じ構成のままCPUコアの動作周波数を下げた、「U5500」もラインナップされている。
前回でも触れたが、ST-Ericssonもまた、「Cortex-A15」の最初のライセンシーに名乗りをあげている。おそらく2012年~2013年にかけて、これを搭載した製品が投入されるものと見られる。
この連載の記事
-
第768回
PC
AIアクセラレーター「Gaudi 3」の性能は前世代の2~4倍 インテル CPUロードマップ -
第767回
PC
Lunar LakeはWindows 12の要件である40TOPSを超えるNPU性能 インテル CPUロードマップ -
第766回
デジタル
Instinct MI300のI/OダイはXCDとCCDのどちらにも搭載できる驚きの構造 AMD GPUロードマップ -
第765回
PC
GB200 Grace Blackwell SuperchipのTDPは1200W NVIDIA GPUロードマップ -
第764回
PC
B100は1ダイあたりの性能がH100を下回るがAI性能はH100の5倍 NVIDIA GPUロードマップ -
第763回
PC
FDD/HDDをつなぐため急速に普及したSASI 消え去ったI/F史 -
第762回
PC
測定器やFDDなどどんな機器も接続できたGPIB 消え去ったI/F史 -
第761回
PC
Intel 14Aの量産は2年遅れの2028年? 半導体生産2位を目指すインテル インテル CPUロードマップ -
第760回
PC
14nmを再構築したIntel 12が2027年に登場すればおもしろいことになりそう インテル CPUロードマップ -
第759回
PC
プリンター接続で業界標準になったセントロニクスI/F 消え去ったI/F史 -
第758回
PC
モデムをつなぐのに必要だったRS-232-CというシリアルI/F 消え去ったI/F史 - この連載の一覧へ