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末岡洋子の海外モバイルビジネス最新情勢 第8回

中東でのBlackBerry禁止の動きとRIMの対応

2010年08月11日 12時00分更新

文● 末岡洋子

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妥協の道を模索するRIMと各国政府

 ここ1~2週間に報じられた政府によるBlackBerry禁止の主な情報をまとめると、アラブ首長国連邦の電気通信規制局(TRA)が8月1日、自国の通信規制に違反するとして10月11日より電子メール、IM、ウェブ閲覧などのBlackBerryのサービスを禁止する計画を発表した。8月3日にはサウジアラビアの通信当局となる通信情報技術委員会(CITC)が同じような理由を掲げ、8月6日よりメッセージの送受信を停止するとした。8月5日にはレバノンがBlackBerryのサービスを調査中だと述べた。これらの国とならんで、インドやアルジェリアなどの国も可能性があると報じられている。

 各国政府は共通して、BlackBerryの暗号化、国外(カナダ)サーバーでの管理に懸念を示している。これはテロ対策など安全のための通信モニタリングという自国の要求を満たせないというのが主張だが、RIMは当初これらの政府の要求に応じてセキュリティアーキテクチャを変更するつもりはないこと、同社のサービスが世界175ヵ国で展開していることを強調した(この中には、サービススタートが遅れた中国、それにロシアも含まれる)。規制に沿うにはなんらかの形でアクセスを可能にする必要があるが、セキュリティはBlackBerryの差別化であり、これを変更することは顧客の信頼を損なうことになる。

 Reutersの報道によると、Torchを発表した8月3日、RIMのCTO、David Yach氏は「多くの国の政府がBlackBerryに依存しており、禁止することは難しいだろう」とする見解を示したという。サウジアラビアの停止が発効となった8月6日、一部のユーザーが使えないと報告したようだが全面的なものではなかったようだ。CITCは結局発効を48時間延期し、RIMとオペレーターに妥協の余地を与えたようだ。ReutersによるとRIMは現在、同国の通信オペレーターと協業し、国内にサーバーを立てる方向性で作業を進めているという。サウジアラビアでの妥協案が受け入れられれば、アラブ首長国連邦など他の国でも同じやり方でクリアする可能性がありそうだ。

国境なき記者団のサイトより、BlackBerryへの規制は必ずしも最近いきなり発生した問題でないことがわかる

 この件では、カナダ政府とアメリカ政府が自由な利用を主張して介入の動きを見せており、政治的な論争に発展する可能性もある。なおNPOの国境なき記者団はアラブ首長国連邦やサウジアラビアは言論・報道の自由を侵害している国としており、RIMに対し、これらの国のプレッシャーに屈しないよう書簡を送ったという。

 これまでBlackBerryは北米(と欧州)の売り上げが大多数を占めたが、このところ北米外の売り上げが拡大(現在は約40%)している。BlackBerryはiPhoneやAndroidに押されており、新規ユーザーを取り込んでいく必要がある。中東の利用者はサウジアラビアが最大で約70万人、アラブ首長国連邦は50万人といわれている。Gartnerによると、中東は1.4%を占めるに過ぎないというが、今後スマートフォンのシェア争いでこれらの国でユーザーを獲得することは重要になる。Googleと中国ではないがRIMにとっては苦しい選択となりそうだ。

筆者紹介──末岡洋子


フリーランスライター。アットマーク・アイティの記者を経てフリーに。欧州のICT事情に明るく、モバイルのほかオープンソースやデジタル規制動向などもウォッチしている

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