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渡辺由美子の「誰がためにアニメは生まれる」 第4回

行き場ないのは本当に不安? アニメで描く時代の闇 【前編】

2010年08月21日 12時00分更新

文● 渡辺由美子(@watanabe_yumiko

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 お侍のチャンバラ、天下分け目の大合戦、お江戸のミステリー・捕物帖……。

 いくつも「お定まり」のパターンをつくってきた「時代劇」。アニメでその「時代もの」というジャンルに風穴を開け、新しい風を送りこんだ作品がある。それが「さらい屋五葉」だ。

 主人公は、どこにも行くあてのない浪人・政之助。人が行き交う江戸の町で職や居場所を求めてさまようその様子には、思わずハッとさせられるようなリアリティがある。現代的かつシャープな、一瞬の不安や戸惑いをあざやかにきりとった描写が「時代もの」の中で確かに息づいているのだ。

 数百年もむかしのキャラクターに、どうして現代を生きるわたしたちの感情が重ねられるのか? そのリアリティの原点は一体どこにあるのか――監督・望月智充氏に聞いていく。前編では「不安」をキーワードに、話を伺っていきたい。

さらい屋五葉

 気弱ではずかしがり屋な性格が災いして浪人となり、田舎から江戸に出てきた秋津政之助は、ある日偶然出会った遊び人風の男・弥一に用心棒になるよう頼まれる。しかし、政が守るべき弥一こそ、かどわかし(誘拐)を生業とする賊「五葉」の一味であった――原作はオノ・ナツメ、「月刊IKKI」(小学館)にて2010年9月号まで連載。最終巻第八巻は9月下旬発売予定。オフィシャルサイトはこちら

監督について

 望月智充(もちづき・ともみ)。1958年生まれ。北海道出身。早稲田大学で早稲田アニメーション同好会に所属し、1981年に大学を中退。亜細亜堂へ入社。主な監督作品に「きまぐれオレンジ☆ロード あの日にかえりたい」「海がきこえる」「ヨコハマ買い出し紀行 -Quiet Country Cafe-」「ふたつのスピカ」「絶対少年」など。


さらい屋で追求したのはリアル、生っぽさ

―― 「さらい屋五葉」を拝見して、まず個人的に惹かれたのは、主人公の政之助(政)が、今の時代を生きる若者の気持ちとシンクロする部分があるのではないか、というところでした。政は、仕官先を探す無職の浪人で、腕は立つものの、用心棒の仕事が入ったと思ったら、人の前に出るとあがってしまう性分のせいで暇を出されてしまったりする。田舎から江戸に出て来たものの、大勢の人がドライに行き交う江戸の空気になじめなくて、「某、居場所がないでござる」と不安でつぶやくという。

望月智充監督

望月 それは原作者のオノ・ナツメ先生が描く「さらい屋」の方向性でしょうけど、おれも原作を読んで、なるほどと思いました。

―― 政の不安に共感するところがあると?

望月 うーん、共感というのとはまた違います。おれ自身はそういう時代があったかどうかわからない。けれども政のような職がない浪人とか、自分の居場所を探しているというような悩みって、現代になって突然出てきたことではないと思うんですよ。たとえば若者の就職難という問題なんかもありますけど……。

―― はい。


望月 まるでつい最近の問題みたいにいわれるけど、実はそうでもなくて。高度経済成長期は就職率が高くて特別だったかもしれないですけど、それ以外の時代の若者の就職の難しさというのは、あまり変わらないんじゃないですか。昔も「浪人」だっていっぱいいたわけだし、いつの時代もそんなものなんじゃないでしょうか、社会というものは。特別に今の時代だけが、格別、若者にとって厳しいものであるとは思わないです。

―― 社会というのはそういうものだと。

望月 ではないのかなと。まあ、時代によって社会の波というか、いいとき、悪いときは多少あるでしょうけど、でもどんな時代でもおおむねそんなもので。若者にとって不遇の時代と言われているときだって、うまくいく人もいるし、いかない人もいっぱいいるだろうと。そう思っているので。

 逆に言うと、政みたいな若者は、いつの時代でもいるんだろうなとも思います。仕事をしてはみたものの、実力を発揮できずに、自分の居場所がないと悩む。いつの時代でも同じな気がします、若者の悩みというものは。現代だって、縄文時代だって、江戸時代だって。

 だからおれのほうでも、政や、弥一たち他のキャラクター、彼らの悩みについては、視聴者に「気持ちがわかる」と思ってもらえるように作りたいと思ったのです。ある程度、それを現実的なものとして見せたいと。

(次のページにつづく)

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