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シンポジウム『電子書籍の“衝撃”「コレがアレを殺す?」』開催

角川歴彦×立花隆、3時間語った電子書籍の未来

2010年08月16日 12時00分更新

文● まつもとあつし

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角川歴彦氏「ジョブズは21世紀のグーテンベルクだが……」

続いて講演を行なった角川歴彦氏は、Appleの動きに注目する

 角川氏はまず冒頭でiPad/iPhoneに先立ってAppleが世に出した携帯音楽プレイヤー、iPodを取り上げ、日本のコンテンツ市場(2008年)のうち音楽が占めるのは1.8兆円だが、新聞・出版の市場規模はその3倍にあたる6.2兆円だと指摘。音楽よりも規模の大きいこの分野に、iPodで市場を席巻したAppleが進出してきたことのインパクトはことさら大きいと語り、講演はスタートした。

 次にそのAppleのコンテンツ審査が非常に厳しいことに懸念を示し、自らの著書『クラウド時代と<クール革命>』を例に挙げ、「スティーブ・ジョブズが登場する箇所があるので、iBooksに登録申請してもAppleの審査には通らないだろう」と語り、聴衆を沸かせた。


角川氏「電子書籍デバイスはネット接続が必須」

 立花隆氏がΣブックとリブリエの開発に関わったように、角川氏も2006年にパナソニックとTBSの提携事業で開発された電子書籍デバイス「ワーズギア」開発の際のディスカッションに参加している。

 その際、角川氏は下記のような未来の電子書籍像を描き、「ワーズギアの第二世代機に対して、ネットとリンクしている電子書籍を提言した」ものの、当時は理解を得られなかったと語った。その経験を踏まえながら、現在の電子書籍を巡る状況、図解を提示しながら解説していった。

角川氏が考える未来の電子書籍像

・デジタル化されたコンテンツ

・ネットにつながっている=ネットでほかのコンテンツとリンクしている

・電子辞書を兼ねている

・「知」としてアウトプットされたものは「知識」というよりも「情報」

・したがって加工されることでさらに価値が高まる性質をもっている

角川氏が提示したコンテンツバンドリングサービスの分類。主なプレーヤーであるApple、Amazon、Googleなどがどこに重点を置いているかを示したもの

紙の本、Kindle、iPadの比較図。紙の本と電子書籍では著作権の在り方が大きく異なるはずだと角川氏は指摘する

 また角川氏は、著作物の保護には厳しい姿勢を示しつつも、YouTubeやニコニコ動画にアップされる自社作品の映像などを基にした二次的な加工物については柔軟な態度で臨んでいることでも知られている。電子書籍については、先に提示した「加工による価値」を認めつつ、「4軸認証」の必要性を主張した。

 角川氏は「時をかける少女」を例に挙げながら、最近まではコンテンツ事業者が抱える様々なコンテンツがクラウドを通じて、ユーザーの持つ複数の端末に届けられる未来像を持っていたが、「iPadの登場によって、さらなる融合が進むのではないかと考えるようになった」という。

「通常のインターネット」と併存して、4つの認証によってコンテンツ(著作物と出版物が分離された電子書籍)が守られるという「4軸認証」の考え方

iPadがトリガーとなりコンテンツだけでなく、コンテンツ産業自体の融合も進むという未来像

 iPadは電子書籍の分野のみならず、コンテンツ産業全体にも衝撃を与えるとする角川氏だが、「スティーブ・ジョブズはジェフ・ベゾスとならぶ21世紀のグーテンベルク」としながらも、「その先」を俯瞰する必要性を指摘して講演を締めくくった。

グーテンベルクの印刷技術の誕生から、ルターの宗教革命、プランタンの出版事業の開始までを俯瞰し、「iPadは発端であり、文化的な成果はこれから生まれるはず」と語った


著者紹介:まつもとあつし

ネットベンチャー、出版社、広告代理店などを経て、現在は東京大学大学院情報学環修士課程に在籍。ネットコミュニティやデジタルコンテンツのビジネス展開を研究しながら、IT方面の取材・コラム執筆、ゲーム・映像コンテンツのプロデュース活動を行なっている。デジタルハリウッド大学院デジタルコンテンツマネジメント修士。著書に「できるポケット+iPhoneでGoogle活用術」など。公式サイト松本淳PM事務所[ampm]。Twitterアカウントは@a_matsumoto


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