これまでの出版社にはできなかったことを
―― 話を聞いてきて、この文庫は出版社がつくったものではないことがすごいと思いました。これまでも「作家が主役」を打ち出した出版社は山ほどありましたが、多くはつぶれ、社員は詐欺師扱いされました。それは本にとって、「読者が主役」だからじゃないかと思ったんです。その主役を必死にさがすのが出版社の役割だったんだろうと。その点でブックス文庫は新しいと思うんですよね。
松本 なるほど。ありがとうございます。とはいえ、かなり社内でも議論があったところなんですよ。出版社として、出版機能を持つべきかどうかというのは。でも、出版という形ではできないことができるのがいいんじゃないかと思って。たとえばこれなんかね。
(と言って、なにやら出してくる)
―― これは……写真が入ってるんですか? 1枚ずつ、ばらばらに。
松本 「綴じない写真集」というものです。夏くらいにはスタートしたいと思ってます。いままでのような写真集をつくるというのは、写真家の方にとって写真を撮るのとはまったくちがう力を使うものなんですよね。それを少しでも軽減できたらと思って。もちろん普通の写真集フォーマットを使うこともできますし。あとはこういうものもできます。
(と言って、またなにやら出してくる)
―― こっちは洋書、ペーパーバックっぽいイメージですね。
松本 たとえばBCCKSを使って、おふくろの60歳の誕生日とかに「おふくろありがとう」とアルバムをつくるとしますよね。そのとき、ハードカバーとかで来たらちょっと身構えちゃうじゃないですか。でも、これだとあげる方ももらう方も気軽ですよね。
―― こうしてインターネットと本を横断することの意義は何だと思います?
松本 絶版がないってことですね。メディアとしてやりたいことができるってことです。いつまでも残るって構造はいいと思うんですよね。元がデジタルデータであれば、マルチデバイス展開もしやすいし。
―― いつまでも生の「本」データはBCCKSに残ると。作家にとってはすごく嬉しいものですよね。
松本 たとえば文庫として刷ったところで、実際に1冊しか売れなくても損はしないわけですよ。オンデマンド印刷で、在庫は抱えないので。「初版ゼロ部」なわけです。どう使ってもらっていい。
―― あ、なるほど。たとえば誤植があってもすぐに刷り直せるし。
松本 妙な話、はじめに1冊作ったものは「色見本」として見ることもできるわけです。たとえば川内倫子さんの「べたりんこ」。仕上がってきたものを見て、「あ、小口これだけ広くなるんだ。だったら黒みをもう少し落とそう」という判断をしています。内容を変えた場合は2刷、3刷と奥付を変えるわけですが、自分で打ち直せるんで。