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業界関係者から歓迎の声も――スキャン代行は「悪」なのか

2010年05月07日 12時00分更新

文● まつもとあつし

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著作権法とどう向き合うのか

―― 実際のところ反応は?

岩松 業界関係者、特に雑誌制作者からは、むしろ歓迎のメールが届いたりしています。また、視覚障害者の方からも感謝のメールをいただきました。これは想定外でした。OCRにかけることで、完璧ではないものの、本の内容がテキスト化されるので、「まだ点字になっていない本も楽しめる」と非常に喜んでいらっしゃるようです。ただ、本のスキャンをしている同業他社からは嫌がらせのようなメールが届いているのも事実です。

本の内容がテキスト化される : ブックスキャンではスキャナーScanSnapの付属ソフトのOCR機能で、本をテキストが内包されたPDFとして取り込んでいる

―― 現行の著作権法では私的複製について「その使用する者が複製することができる」と定められています。厳格に解釈すれば、ブックスキャンは違法だ、という判断も成り立ちますが、その点はいかがでしょうか。

ブックスキャンの著作権についてのページ。スキャンの対象は「著作権保有者の許可があるもの」と但し書きがある

岩松 現状では、ブックスキャンに依頼された本は著作者の同意を得ているものとしてスキャンしています。将来的にはそれも撤廃し、私的複製の範囲内でサービスを提供したいと考えています。もし仮に裁判になった場合は「それは私的複製である」と主張します。

 「使用する者が」 とある部分をどう判断されるかによると思いますが、使用する者の意志で複製を依頼しているので、そう解釈できると思っています。それでも「使用するものの『手』で直接、実行ボタンを押さなければいけない」と判断されてしまった場合には、お客様側が「ネット経由でボタンを押せる」自動化のシステムを組みたいと思います。


―― 複製の問題とも絡みますが、「裁断した本は一切返却しない」という点が、懸念を大きくしてしまっている部分もあると思います。「1回スキャンした後は、送られてきた本を『せどり』(古本屋やネットオークションで売りさばくこと)に回すのではないか」という疑問にはどう答えますか?

岩松 実際には、本当に手間を省くためです。ページに書き込まれたメモもスキャンして、たとえ同じタイトルの本でも一冊一冊データ化していますので、せどりを行なっていることはありません。もちろんデータの蓄積もしていません。大量の本が寄せられていますので、返却することを考えたときに、場所の確保、その本をきちんと整理して元箱に戻す、漏れがないか確認する、伝票を書く、ヤマトさんに来てもらって発送対応する……この一連の流れにそれぞれ確認するというコストが発生します。

 ユーザーの視点からすると「返してあげたい」という気持ちもあります。ですが、一部をオーケーにして全体のコストをあげることは避けたいので、明確にそこはやらないと宣言しています。例外処理をなるべく減らして、オペレーションをシンプルにすることで価格を維持し、スピードを上げるというのが目的です。なので、ニーズが少ないものは排除していくことで、多くのユーザーの満足を維持するという狙いです。


―― DTPの段階からデジタル化する電子書籍が日本でも普及した場合には、どのようにビジネスを組み立てますか? ずっと「蔵書」のデジタル化でやっていくのでしょうか?

岩松 デジタル化された書籍が普及しても、今まで買った書籍がオンラインで、タダで見られるようになるとはちょっと考えにくいと思っています。従って、過去買ったものに関する書籍のデジタル化のニーズは今後も一定割合あると思います。ユーザーのニーズに応じてどんどん変化していくのが良いと思っていますので、常時アンケートなどで、変化に対応していきたいと思っています。方向性としては、全体の満足度をあげるために、無難なサービスになることなく尖ったサービスを目指していきたいですね。

当初スキャンの際の読み取りエラーを避けるために受け付けていなかった、厚手の本や発売後5年以上経った本も、対応するようになったという



(次のページに続く)

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