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電子出版ビジネスイベント「e Publishing Day 2010」開催

否応なく訪れた「電子書籍元年」を俯瞰する

2010年04月30日 09時00分更新

文● まつもとあつし

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変わる、著者・出版社・書店そして図書館の関係とは?

 出版・IT業界のみならず、国、そして様々な業界から電子書籍の分野に注目が集まっている。

 Kindle、iPadの米国での好調な販売状況を見ても、日本にもその波が押し寄せてくることは間違いなく、従来の産業構造を大きく変化させることが予想されているからだ。

 4月22日に開催されたイベント「e Publishing Day 2010 - 電子出版ビジネスの未来を拓く」(主催:翔泳社)にも、数多くの関係者が詰めかけ、約5時間半に及ぶ講演に耳を傾けた。

 このイベントは、単に電子書籍の可能性を語るだけでなく、電子化によって増す出版社と図書館の緊張関係についても言及があるなど、多角的な内容となった。


進む図書館の電子化は出版業界にどんな影響を及ぼすのか?

 電子化によって影響を受けるのは、もちろん民間だけではない。不況の影響もあり、その利用を伸ばしている「図書館」は電子化に積極的に取り組んでいる。その流れは後で紹介するように出版産業にも影響を及ぼす可能性がある。

 セッションの冒頭は、国立国会図書館の遊佐氏が所蔵書籍の電子化と今後について説明を行なった。

国立国会図書館総務部企画課電子情報企画室長 遊佐啓之氏

 国立国会図書館は、蔵書数約930万冊・逐次刊行物約1300万点と、名実共に国内最大の規模を持つ。出版物はすべて法律によって納本の義務があり、そのライブラリーは拡大を続けている。

 国会図書館への民間刊行物の納本義務は1部と定められている関係上、「閲覧と保存の両立が課題」だ。そこで、昨年度の著作権法改正によって必要なデジタル化が認められるようになったことをきっかけに、現在ではスキャンによる電子化が推進されている。

 電子化によって保管がより確実になるほか、海外でも進む図書館のデジタル化の流れを受け、インターネットを通じて蔵書をオンラインで閲覧できるようにする仕組みの整備が進んでいる。

 一方、出版社によるネット流通の拡大や、昨年出版業界に衝撃をもたらしたGoogleブックサーチの登場によって、ある面においては「図書館との競合が生じていると認識している」と遊佐氏は語る。

大規模デジタル化をめぐる連携と対抗の図式

 そのため、図書館のデジタル化の方向性については、関係者協議会・審議会を通じ民間の意見も取り入れられ、総務省、文科省、経産省による三省懇談会での検討・調整も行なわれているという。

 デジタル化によって、図書館間での蔵書の送信や、有償配信(※)などの可能性も生じてくるが、例えば、利用提供については出版ビジネスへ悪影響が出ないように、ネットを通じた閲覧は、蔵書数分しか同時には行なえない、利用者の複写は認めないといった方針が確認されている。

図書館の電子アーカイブを利用した有償配信(貸し出し)は、国立国会図書館長 長尾真氏が提唱する、いわゆる「長尾モデル」が議論を呼んでいるところだ(画像は文化庁「デジタル・ネットワーク社会における出版物の利活用の推進に関する懇談会」における長尾氏提出の資料より抜粋)

電子書籍は「3度目」の波

 続いて株式会社イースト代表取締役社長の下川氏が「最新デバイスと電子出版ビジネスモデル」をテーマに講演を行なった。

下川和男氏。今年設立24年を迎えるJEPA(日本電子出版協会)副会長も務める

 氏によると、いま電子書籍は3度目の波を迎えているという。

 第一段階は1998年~2003年の米国でのデバイス・ビューワーの登場(Microsoft Reader、Adobe Readerなど)とその収束、第二段階は2004年~2005年にかけての日本でのSONY LIBRIe、松下 Sigma Bookの登場とその失敗があった。

 よく知られているように、SONYのLIBLIeは後のKindleのお手本になった端末だが、書籍出版については独自の環境にあった日本での発売が失敗の原因ではなかったかと下川氏は指摘する。日本ではDTPの普及が遅れており書籍のデジタルデータがそれほど潤沢ではなかったからだ。また縦書きに拘るのは日本だけになっているのもその一因とする。

 一方、現在実用化されている電子書籍デバイスには2つの流れがあるという。それは液晶かeInk(イーインク)のどちらを選択するかということ。それぞれの利点・欠点を下川氏は以下のように整理している。

液晶とeInkの比較

 下川氏は先行するKindleの特徴として、「低廉(9.99ドル~)な価格設定」「ネット接続を一切ユーザーに意識させない仕様」「Kindle DTPによる自費出版の可能性」の3点を挙げる。

 Kindle DTPは一定の条件を満たせば、印税が70%の確保できるとされ、魅力的な仕組みではあるが、回線利用料をコンテンツ提供者から徴収する点には注意が必要だという。コミックなど画像データが大きい場合は、利益が小さくなってしまうからだ。

 AmazonのKindleだけでなく、バーンズアンドノーブルの「nook」、善戦するSONY Reader、ビジネスユースに特化のSlatePC/Courier、Google Android Tablet、そしてiPadといったデバイスが次々登場・発表されており、まさに百花繚乱といった状況だ。

 OSに利用料の掛からないAndroid、電子書籍ビューワーにやはり無償のAdobe Digital Editionsを採用することで、様々なメーカーが安価に端末を提供できるようになっていると下川氏は指摘する。

会場後方には様々な電子書籍端末が展示されており、それぞれ自由に触れることができた

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