拡大戦略が失敗、ハイエンドへ再フォーカス
ここでX1からX10に至るまでの流れを振り返ってみたい。
Sony Ericssonといえば「Walkman」や「Cyber-shot」を冠した携帯電話が連想される。一方これらのヒットと並行して、同社は2007年から2008年前半頃まで積極的に市場の拡大を図ってきた。それまでどちらかというとハイエンド機種ばかりを用意してきたのに対し、ミッドレンジ向けの端末もポートフォリオに加え、インドなど途上国(=ボリューム市場)を視野に入れた提携も進めていたのだ。市場シェアは9%に達しており、当時のCEO、Miles Flint氏の下でトップ3入りを目指しての戦略を取っていた。
しかし、2008年秋以降に携帯電話業界を襲った不況とアップルの「iPhone」ショックを受け、Sony Ericssonはポジショニングを再度変更。“コミュニケーション・エンターテインメント”という新しいスローガンを打ち出した。X10はそれを本格的に具現化したものと同社は説明している。戦略の転換にあたって、X10は重要な役割を担っているのだ。
Sony Ericssonらしさをどうやって表現するのか。そこでデザイン、操作性、一貫性などにフォーカスをあてた。iPhoneやAndroidが持ち込んだ新しい流れを受け入れつつも、携帯電話メーカーとしてのプライドも失わなかったようだ。iPhoneがミニコンピュータ的であるのに対し、携帯電話の最大の存在意義であるコミュニケーションを中心に据え、新しい方法を提案した。Twitter、Facebook、Mixi、メールなど同じ人からのメッセージを1ヵ所で管理できるTimescapeはその一例と言える。
Xperiaの好調を生かした
製品のファミリー化が今後の課題
Xperia X10が好調となると、次の一手として「ブランド化」「ファミリー化」というキーワードが浮かんでくる。
Sony Ericssonは2月、スペイン・バルセロナで開催された「Mobile World Congress 2010」(MWC2010)で、Xperia X10ファミリーとして、小型機種「Xperia X10 mini」、スライド式QWERTYキーボードを付けた「Xperia X10 mini pro」をすでに発表している。Xperia X10という1つのブランドをつくり、消費者にこの中から自分のニーズにあったものを選んでもらうという戦略だ。
もう1つのファミリーが「Vivaz」だ。2010年1月に発表したコミュニケーション・エンターテイメント機種で、HD動画撮影機能やカラフルな本体カラーなどエンターテインメント要素が強い。Symbianを採用したことからも、従来からのファンにアピールしそうな機種だ。その後VivazにはQWERTYキーボードを搭載した「Vivaz pro」を追加している。
携帯電話はこれまで、メーカーが膨大な製品ポートフォリオを展開し、顧客は多様なラインナップの中から1台を選ぶというのが市場の特徴だったが、iPhoneはその強烈なブランドのもとで、(旧機種をのぞけば)選択肢を用意しないスタイルで大ヒットした。Sony EricssonはWalkman「Wシリーズ」やCyber-shot「Cシリーズ」といった記号的なシリーズ名から、サブブランド方式に戦略を拡大しており、ファミリー化はその延長といえる。
だが、ハイエンドに再びフォーカスを戻すことの代償もある。販売台数の減少とそれに準ずるシェアの減少だ。すでに第1四半期にも兆候は現れており、平均販売価格(ASP)は134ユーロと上昇した一方で(直前の2009年第4四半期は120ユーロ)、販売台数は前年同期の1450万台から1050万台に減少、推定シェアも6%から4%に縮小している。
筆者紹介──末岡洋子
フリーランスライター。アットマーク・アイティの記者を経てフリーに。欧州のICT事情に明るく、モバイルのほかオープンソースやデジタル規制動向などもウォッチしている
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