初音ミク・クリプトン社長が語る
「著作権法とインターフェースの矛盾」
2番手はボーカロイドソフト「初音ミク」を発売し、日本にCGMブームを巻き起こした伊藤博之氏(クリプトン・フューチャー・メディア代表取締役)。「皆さんの支持のおかげで、CGMという新しい潮流を作り出すことができた」という感謝の言葉から講演は始まった。
発売当初、初音ミクは「DTMユーザー向けのニッチな商品」として開発したと伊藤氏は語る。ところが発売後、ユーザーがイラストを描き、アニメを作り、コスプレをするなどして、商品そのものが二次創作の「共通テーマ」になったことで、認知度は爆発的に上がった。
そこで出てきた問題は、初音ミクが創作の共通テーマとして「インタフェース」になることと、ユーザーが作った作品に著作権が自動的に発生する「著作権法」の関係が相反していたことだった。
インタフェースは「誰でも自由に使えなければいけない」が、著作権法は「他人のつくった作品を勝手に利用してはいけない」。この矛盾を解決するため、許諾の範囲を拡張したのが「ライセンス」の仕組みだった。
クリプトン社では2007年に「キャラクター利用のガイドライン」を定めた。ガイドラインに沿うかぎり、二次創作は権利侵害にならない。同時に「ピアプロ」という、自社キャラクターの二次創作物を投稿できるサイトも開設した。ピアプロにまとめて著作物の利用許諾を与えることで、ユーザーによる二次創作や、二次創作の二次創作(N次創作と呼ばれる)も可能にした。
ニコニコ生放送やUstreamの配信画面にも「難しい」というコメントが多く見られたように、話自体はきわめて堅い。それでも「二次創作の合法化」という前例のない問題に直面し、ひとつひとつ解決策を考えていった過程が伺われる講演だった。
ドワンゴ開発担当が語る
「ニコニコ動画『4つの時代』」
3番手は「ニコニコ動画」の開発総指揮を務める戀塚昭彦氏(ドワンゴ・研究開発本部)。サービス開始から現在に至るニコニコ動画の歴史を、「コメントの時代」「タグの時代」「コミュニティの時代」そして「ライフログの時代(仮)」という4つの時期に分けて解説した。
最初期は動画の投稿機能もなかった「コメントの時代」。コメントの面白い使い方の模索と共有の中から弾幕やコメントアートなどの表現が生まれ、「コメントで動画を楽しむ場」が形成された。
続く「タグの時代」には、動画投稿機能と動画のジャンル分け機能「タグ」が追加された。タグの数に制限を与えるとともに、誰でもタグを編集できるようにする「ラジカルな設計」(戀塚氏)によって、動画間の共有ネットワークが形成された。このタイミングで「初音ミク」が発売され、DTM系の動画が爆発的に増えていった。
「コミュニティの時代」にはグループ創作の支援を目的に、簡易SNS機能「ニコニコミュニティ」を追加。同じ仕組みで双方向のストリーミング配信「ニコニコ生放送」も開始した。さらには動画作りの素材を使いやすくする「ニコニ・コモンズ」というライセンスも導入。結果ユーザーは急激に増えたが、コンテンツの供給が多すぎてユーザーが欲しい情報にたどり着けない「情報の洪水」状態になった。
そして現在は「ライフログの時代(仮)」に来ているという。新しい動画を見つけやすくする「世界の新着動画」機能や、生放送を後から見られる「タイムシフト」機能などに加え、登録したユーザーがニコ動上で何をしたか通知する「ニコレポ」機能を追加した。Twitterとの連携も積極的に取り入れている。ユーザーがどんなニコ動の使い方をしているのか、情報として残せる設計にしたいという考えだ。
「コメントの時代」から「ライフログの時代(仮)」に至る流れを、「過去から現在への『いつでも祭』の拡大」というキーワードで俯瞰した戀塚氏は、次の予想として「未来をネタに『祭』にする」というコンセプトを提案。現在までのデータを分析して未来を「予測する」、未来の予定を立てて人を集め「調整する」、技術や道具を人と共有して「育てる・作る」。このようなテーマを引き寄せていけたら、とまとめた。
次々と新機能を投入し、進化し続けるニコニコ動画。その変遷をプロジェクトリーダーの視点から整理することで、古くからのユーザーにも初心者にもニコニコ動画の全体像が見えてくる内容だった。