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実例に学ぶ ブログ炎上 最終回

コミュニケーションインフラへ進化していくブログ

2007年01月01日 10時35分更新

文● 伊地知晋一

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これまで国内の事例を中心に炎上したブログを紹介してきましたが、炎上は世界中で発生している現象です。もちろんインターネットの環境も国によって違いますし、国民性の違いも炎上の性質を大きく左右します。最終回では、海外の炎上について触れ、ブログを炎上させないための総括を行ないたいと思います。

世界最大の企業、ウォルマートでもやらせブログ登場

 2006年10月、ウォルマートというアメリカの巨大スーパーマーケット・チェーンのやらせブログが明らかになり、非難されています。

 ジムとローラというカップルがネバダ州からジョージア州までの約4500kmをRV車でアメリカを横断する様子を記録した「Walmarting Across America」という旅行記のことです。ウォルマートは全世界で売上高が30兆円を超える文字通り世界最大の企業ですから、アメリカ全土のいたるところに出店しています。そのウォルマートの駐車場はキャンピングカーなどで全米を旅する人に無料解放されているのです。ジムとローラもウォルマートの駐車場をモーテル代わりに旅行し、そこで出会ったウォルマートのスタッフとの交流をブログに更新していました。

 2006年4月にスタートした二人の旅は2006年10月12日の更新を最後に終わっています。最終回でも「ウォルマートのことを悪く言う人は多いけど、実際はいい人たちばかりだった」ということが強調されています。ブログをスタートしたときから「実在の人物が書いているのか?」といったブロガーの存在そのものを疑うような書き込みがあり、「我々は実際に聞いた話を書いている。これは真実である」といった反論をブログ上で行なっていました。

 ところが、後にこのブログはウォルマートのPR戦略を受け持つ広告代理店のエデルマンという会社がプロのライターとカメラマンを使って仕掛けた「やらせブログ」だったことが判明し、10月16日に「我々の全面的な責任です」とエデルマン社のリチャード・エデルマン社長がホームページで謝罪する自体に陥りました。

 現在では「Walmarting Across America」の過去の書き込みのほとんどは消去されており、10月10日と12日の2回分だけ残されています。

米マイクロソフトも
やらせブログ疑惑で非難集中

 最近では米マイクロソフトがやらせブログの疑いで非難されました。

 2007年1月30日に新OS「Windows Vista」が発売されましたが、マイクロソフトはそのプロモーションの一環として、2006年12月下旬にVistaの搭載されたエイサーのノートPC を、アメリカで影響力の強いブロガーに送り付けました。そこで、Vistaを使ってもらい感想をブログで書いてもらう、口コミマーケティングを狙ったわけです。

 その結果、「ブロガーにわいろを贈って、やらせブログを書かせている」という非難がマイクロソフトに寄せられました。焦ったマイクロソフトは鎮火の対応を誤ります。「実はあのVista搭載のPCは貸しただけで、そのうち返してもらいます」といったコメントを急遽発表したのです。

 最初にPCを送るときには「使い終わったら返してもらっても、友人に渡しても、またそのまま持ち続けても構いません」といったことを伝えています。当然、今度はPCを受け取ったブロガーが、「そんなことは聞いてない」と怒りのコメントを自らのブログに書き込むこととなりました。

 このプロモーションもウォルマートのやらせブログを担当したエデルマン社で、「エデルマンの新しい失敗例」と酷評されています。

やらせブログは国籍を問わず炎上する

 アメリカではやらせブログのことをfake(ニセモノ) + blog でflogと言います。企業が行なうこのflogが非難されるのは日本とまったく同じ構図です。本連載の第2回「やらせ系ブログの炎上」では、ソニーが新型ウォークマンのプロモーションで「ウォークマン体験日記」というやらせブログを行ない、炎上したという事例を紹介しました。これも読者がブログに書いてある内容の矛盾を指摘して、やらせであることが露呈しました。flogがインターネット上では突き止められる可能性が極めて高いというのも世界共通のようです。

 ちなみにソニーは販売促進プロモーションに関して話題が多い企業です。

 アメリカでは、2006年のクリスマスシーズンにYou Tube上でPSPの素晴らしさをラップする動画が話題を呼びましたが、後にそれはソニーのプロモーションを手がけていた広告代理店がわざと素人の手づくり動画のように作ったということが判明しました。

ブログの特性をつかみ、適切な対応を取る

 実は炎上の規模でいえば、アメリカや韓国など海外よりも日本のほうがはるかに大きいようです。

 たとえばアメリカの炎上は多くてもせいぜい数百件の規模が多いようです。さらにその中心はやらせブログに代表される法人です。ところが、日本では法人だけでなく、個人のブログでも1万件単位のコメントがつくことがあります。国民性の違いなのでしょうか。アメリカに比べると日本のほうが情報カスケード(原義は「滝」。特定の意見に急激に収斂していくこと)が起こりやすい印象を受けます。

 最近では個人ユーザーの多くが当たり前のようにブログを用いて情報発信するようになり、後追いで企業もブログをビジネスに活用するようになってきました。特に販売促進のプロモーションにブログが利用されるというのは珍しくなくなってきています。

 個人ブログのユーザーが炎上を避けるための最大の自衛手段としては、世論を二分しているような「微妙な話題」には触れないということでしょう。もちろん、反社会的な行為の自慢は論外です。ただ、個人のブログが炎上しても、極端にいえば無視する「スルー力」(余計な情報を選別し必要な情報だけを得る力のこと)があれば放っておけばいいですし、精神的苦痛はともかく、たいした実害はないといえます。

 一方で、企業が炎上するとそうはいきません。それまで築き上げてきた企業ブランドに傷がついたり、新商品のプロモーションにマイナス効果が出ることも十分考えられます。企業ブログを炎上させないようにするために絶対に避けなければならないのは、なんといってもやらせブログです。やらせブログを行なった企業はたいてい猛烈なバッシングを浴び、閉鎖に追い込まれています。また、プロモーションとしてのブログを使用しているつもりが、事前の告知の不徹底やその後対応の不手際によって、上記のマイクロソフトように「やらせブログだ」と非難されることがあります。

 企業がビジネスでブログを使う際には、はっきりと「これは企業がスポンサードしているブログです」と明示することが炎上を防ぐ上でもっとも重要です。「企業色がついたら、読者が離れる」という誤解をしているビジネスマンもいますが、今は多くの読者がブログの内容を見て、評価する、しないを自分で判断します。「企業が行なっているブログだからウソだ」と一方的な判断をされることはほとんどないでしょう。むしろ中途半端に情報操作をしたり、何かを隠そうとすると、インターネットの力学からほとんど必ずといっていいほどヤラセやウソが露呈することになるのです。

 ブログやSNSは登場したばかりのメディアですがその特性を十分に理解し、適切な使い方をすれば、活用方法は無限に広がるでしょう。ホームページやeメールがビジネスのシーンに欠かせない存在となったように、ブログはコミュニケーションを通して、顧客へのプロモーションや社員間同士の情報共有に利用されていくでしょう。SNSも単なる友達と繋がり情報交換するだけの場ではなく、目的を持って利用されるコミュニケーションインフラへと成長していくと思われます。

 本連載が読者の皆様のビジネスシーンにおいてブログやSNSの活用を考える一助となることを祈って、筆を置きたいと思います。

著者・伊地知 晋一(いじち しんいち)プロフィール

伊地知氏

伊地知氏写真

株式会社ゼロスタートコミュニケーションズ専務取締役。 1968年生まれ。e-mailを活用したマーケティング会社を経て、2000年ライブドア(当時オン・ザ・エッジ)へ入社。執行役員として2003年「ライブドアブログ」をスタートさせ、国内最大のブログサービスに育て上げる。その後、2年半の間に「やわらか戦車」のプロデュースを行なうなど、50以上のネットサービスを手がける。著書に『CGMマーケティング』(ソフトバンククリエイティブ)がある。


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