ゲスト●頓知・代表取締役社長 井口尊仁氏
立命館大学文学部哲学科を卒業後、演算星組や編集工学研究所、ジャストシステムなどを経て、1999年に国内CGM(Consumer Generated Media)の先駆けデジタオを創業。2008年には頓知・(トンチドット)を設立し、「TechCrunch 50」で発表した「セカイカメラ」が全世界的なセンセーションを巻き起こした。
アナログとデジタルの窓
2008年9月10日、米国サンフランシスコから日本人にとっては耳慣れた言葉が、英語のニュースで届いた。「Tonchi Dot's Sekai Camera」として紹介された「セカイカメラ」は、iPhoneを使って空間に情報を配置する「ソーシャル・タグ」サービスである。iPhoneが現実世界(アナログ)と仮想世界(デジタル)を行き来する窓として機能する。
セカイカメラが発表された「TechCrunch 50」では、ワールドワイドな拡張現実のプラットフォームである点、そしてタグ付け・閲覧のツールとしてiPhoneを採用していた点で大きな喝采を浴びた。しかし一方で、実装の方法については疑問の声も上がっていた。
それから5ヵ月を経た2009年2月18日、ついにその懐疑的な要素を吹き飛ばすことになる。東京で開催されたファッションイベント「rooms」で、ソニーコンピュータサイエンス研究所が開発した位置情報サービス「PlaceEngine」とソフトバンクテレコムの協力を受けて、セカイカメラのワールドプレビューが実施された(セカイカメラ自体についてはこちらの記事が詳しい)。
iPhoneの画面を通して会場内を見回すと、ブースにあるアイテムやブランドの説明といった「エアタグ」が浮かんでおり、それにタッチすると詳しい写真やテキストなどを読める。また、セカイカメラが映し出している風景を切り取ってその場所に残したり、テキストを書き込んで新たなエアタグとして浮かべることもできる。
世界をつなげるセカイカメラ
このセカイカメラを開発しているのは「頓智・」というベンチャー企業。代表取締役社長の井口尊仁氏は、哲学科の学生だった当時にプログラミングと出会い、哲学とコンピューターサイエンスの思考のぶつかりを体験したそうだ。以来、人類のイノベーションとテクノロジーの関係性について深く考えるようになったという。
セカイカメラは、現実世界に対するオルタナティブ(代替的)な考えやフィーリングを通じて生み出されたアイデアだった。
人が見たままの情景やアイデアが、(その人の文化や経験の違いから)そのまま伝わることはなかなか難しい。しかし、その場所に残された情報を共有することによって、人間同士の思考を結びつけられるのではないかと考えます(井口氏)
セカイカメラがより多様な情報を伝えることで、相互理解を促進する。その結果、究極的には世界平和にいたるのではないか。井口氏のセカイカメラに対する思いは非常に大きなものだ。
この連載の記事
-
第9回
iPhone/Mac
オープンリールを「楽器」として再発見──和田永氏 -
第8回
iPhone/Mac
面白さ、デジタル化しています──カヤック柳澤氏 -
第7回
iPhone/Mac
アートは日常の再発見──ICC 四方さん -
第6回
iPhone/Mac
ソフト開発を「できない」から始めない──木下誠氏 -
第5回
iPhone/Mac
アニメの原点に戻る──「崖の上のポニョ」と奥井氏 -
第4回
iPhone/Mac
遊びを誘発する箱──「Pixel Factory」と岡田氏 -
第3回
iPhone/Mac
アナログシンセは同志──「モーグIII-C」と松武氏 -
第2回
iPhone/Mac
TypeTrace -
第1回
iPhone/Mac
Micro Presence -
iPhone/Mac
松村太郎の「デジタルとアナログの間」<目次> - この連載の一覧へ