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遠藤諭の「0(ゼロ)グラム」へようこそ

テレビの未来

2009年03月12日 08時00分更新

文● 遠藤諭/アスキー総合研究所

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 もし、いま50年前のモノクロテレビを引っ張り出してきても、米オバマ大統領の就任演説を映し出すことができる(ちゃんと電源が入ればだが)。これは、放送とパッケージメディアの違いというべきだが、他のメディアではめったにあることではない。LP盤は、モノクロのテレビ放送より後の1948年に登場、コンパクトカセットが1962年、CDが1982年、1990年代には音楽配信であり、いまのコンテンツを過去の機器で再生することはできない。

ドイツ技術博物館

「ドイツ技術博物館」の展示。写真の受像器は、アップライト型アーケードゲーム機のように、上面を向いたブラウン管を鏡で反射して見る方式になっている。

 テレビが変わらず使われてきたのは、超時代的な強烈なパワーを持ったメディアだったからだとも思える。20世紀後半というのは、テレビが世界のあらゆる風景や人々の営みを映し出した時代といってもよい。テレビドラマから歌番組や教育テレビ、戦場やオリンピックや月面の映像まで、あらゆるものを電波に換えて伝えてきた。

 毎年、ベルリンで「IFA」(INTERNATIONALE FUNKAUSSTELUNG:イーファ)という民生品エレクトロニクス機器の見本市が開かれる(以前は隔年)。幕張メッセの1~8ホールの約3倍の16万平方メートルという会場に、63カ国から1245社が出展するという大イベント。米国で開かれるCES(Consumer Electronics Show:セス)が野球の文化圏なら、IFAはサッカーの文化圏と一回り大きく、いま注目の「EMEA」(欧州・中東・アフリカ)からもどっと人がやってくる。

ベルリン・ラジオ塔

ベルリンにある「Berliner Funkturm」(ファンクトゥルム=ラジオ塔)。IFAの開催されるメッセ・ベルリン見本市会場に、現在も立っている。

 わたしも2度ほど出かけたことがあるのだが、その歴史は古く、1924年に第1回が開かれた「大ドイツ放送展」が始まりだそうだ。第1回の新製品展示は「鉱石ラジオ、真空管ラジオ」というくらいの古さだが、実は、テレビとドイツの関係も深い。テレビの原型ともいえるニプコー円板もブラウン管もドイツの発明である。ヒトラー政権下のベルリンオリンピック(1936年)では、実験ではあるがテレビ中継も行われている。

 20世紀は、大衆メディアが大きな力を持つ時代だったのだ。テレビは世界を映し出しただけでなく、テレビの映像によって世界が変わっていったということだ。J・F・ケネディが、リチャード・ニクソンとのテレビ討論によって、1963年の大統領選挙に勝利したなどは、ほんの切れっ端のような話である。

 そのテレビが、大きく変貌をとげようとしている。日本では、2011年7月24日に長らく使われてきたテレビ放送(アナログ)の電波が停止する。それは、「おつかれさん」と言葉をかけたくなるような感動的な瞬間となるはずで、視聴率はサイコーを記録するのではないかとも思える。それでは、その先に待っているのは何か? 地上デジタル放送だけではないのは明らかだ。

 テレビが果たしてきた役割を考えると、これは、たかだか1つのメディアが切り替わるという問題ではない。その背景には、いうまでもなく世界をもの凄い勢いで変えはじめているネットという存在がある。というよりも、ネットやコンピュータというようなものは、これからテレビが生まれ変わる新しいメディアの準備段階だったのだという可能性もある。にもかかわらず、これはあまりにも議論されていないのではないか?

久夛良木 健氏

 そんなわけで、「テレビの未来」と題したトークセミナーを開催する。ワイアードビジョンが昨年9月から全7回の予定で行っている「IPTVセミナー」の最終回をかねて、ワイアードビジョン、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科との共催という形である。いまテレビを語ってほしいキーパースンとして、久夛良木 健氏(ソニー・コンピュータエンタテインメント名誉会長)、麻倉怜士氏(津田塾大学講師/オーディオ・ビジュアル評論家)をはじめとした講師陣が登場。まだ見えていないテレビの未来が、メディア、文化、そしてテクノロジーから語られる(詳しくは、セミナーの告知ページへ)。

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