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トヨタの“かんばん方式”導入で日々成長する“スパコン開発の現場”を目撃!!――NECコンピュータテクノ見学会レポート

2004年11月17日 00時00分更新

文● 編集部 佐久間康仁

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NECコンピュータテクノの本社・甲府事業所の外観
NECコンピュータテクノの本社・甲府事業所の外観。このほかに、アウトソーシング事業やデバイス生産などを担当する茨城事業所もある

新宿から直線距離にして約100km。山梨県の“へそ”にあたる、中央自動車道の甲府南ICの程近くに、NECコンピュータテクノ(株)は存在する。スーパーコンピューター/メインフレーム/ハイエンドサーバー/UNIXサーバー/IAサーバー/ワークステーションならびにATM(現金自動預払機)や各種専用端末にストレージ製品と、いわゆるパーソナルコンピューターを除く、NECブランドのコンピューター製品群のほぼすべてを設計・開発・製造しているのが、NECコンピュータテクノである(パソコン製品はNECパーソナルプロダクツ(株)が設計・開発・製造を担当)。同社は12日、本社・甲府事業所のプレス関係者向け見学会を開催した。



NECコンピュータテクノの会社概要 NECコンピュータテクノが担当する製品群
NECコンピュータテクノの会社概要NECコンピュータテクノが担当する製品群

NECコンピュータテクノは、1985年に甲府日本電気(株)として設立し、当初は日本電気(株)府中工場(現在の甲府事業所からは中央自動車道を利用して車で1時間半ほど)からスーパーコンピューターや汎用コンピューターの生産を引き継ぎ、2002年4月に茨城日本電気(株)と合併して、NECコンピュータテクノに社名変更した、という経緯を持つ。

NECの執行役員常務の近藤忠雄氏ら
最初に挨拶に立ったNECのコンピュータプラットフォームビジネスユニット 執行役員常務の近藤忠雄氏(左)と、NECコンピュータテクノの社長の那須賢治氏

見学会の冒頭には、NECのコンピュータプラットフォームビジネスユニット 執行役員常務の近藤忠雄氏、NECコンピュータテクノの社長の那須賢治氏らが、同社の事業戦略や生産体制の強化、特に1998年から取り入れた、トヨタ自動車(株)が発案して生産性を飛躍的に向上したといわれる“かんばん方式”の採用により、生産ラインの短縮/部材調達の効率化/多品種少量の混流生産の実現などを、実例を挙げながら説明した。

NECの掲げる“テクノロジーリーダー戦略” スーパーコンピューター『SX-8』による気候シミュレーションの例
NECの掲げる“テクノロジーリーダー戦略”スーパーコンピューター『SX-8』による気候シミュレーションの例
同社の微細配線/高密度実装技術を例を挙げながらわかりやすく説明
同社の微細配線/高密度実装技術を例を挙げながらわかりやすく説明

最初に近藤氏が、NECのコンピューター事業の戦略について、「先進のテクノロジーとクオリティー、サポートで世界No.1を目指す」と意気込みを示した。特に先進テクノロジーについては、90nmの微細配線、直径0.1mmの高密度実装技術などを、「90nmプロセスの9層Cu配線は、髪の毛1本(の太さ)に333本の配線を実現し、直径0.1mmの外部出力ピンが合計8000本、1mm角の範囲に30本のピンを立てる高密度実装技術を確立している」と、わかりやすい例えを挙げながら国内工場による設計技術の高さをアピールした。



NECのコンピュータプラットフォームBU(ビジネスユニット)の生産方針1 NECのコンピュータプラットフォームBU(ビジネスユニット)の生産方針2
NECのコンピュータプラットフォームBU(ビジネスユニット)の生産方針

同社の生産方針は、

  • 日本発のテクノロジー
  • 世界で戦えるコスト
  • 変動対応力の強化
  • 業界最高品質

の4つで、「これらを実現することで、テクノロジーリーダー製品、クオリティーリーダー製品の創出を行なう」、と高らかに宣言した。競争力のあるコストとテクノロジーという、一見相反する方針の両立について近藤氏は、「テクノロジーリーダー製品(スーパーコンピューターなど)については引き続き国内生産を行なうが、インダストリースタンダード製品(IAサーバーなど)については、海外生産やB.T.O.出荷で価格競争力を実現する。ただし、海外生産といっても汎用部材などは外部で調達し、基本生産を中国・台湾などで部品・筐体・マザーボードなどを組み合わせたベアボーン状態にする。これを国内に持ち込んでストックしておき、注文があればB.T.O.や検査を日本国内で行ない、顧客へ届ける。これにより最短2営業日出荷(B.T.O.モデルは6営業日出荷)という短納期を実現できる。一方、他社は現地ですべて生産し、B.T.O.や検査まで海外で行なってから出荷を行なうため、どうしてもリードタイムが10日前後と長くなる」と、同社の優位性を説明した。

生産体制の見直しによる短納期の実現1 生産体制の見直しによる短納期の実現2 デリバリー方式の改革による顧客満足度の向上
生産体制の見直しによる短納期の実現と、デリバリー方式の改革による顧客満足度の向上

続いて、那須氏が1998年から取り入れた“かんばん方式”と、それによる生産性の向上について、「以前は計画見込み生産を行なっており、顧客先に機材を搬送して現場で組み込み/OSインストールなどの作業を行なっていた。しかし、今はB.T.O.によって顧客の求める仕様をあらかじめ聞き出して、社内で完成品にしてOSもインストール済みの状態で出荷する。大げさに言えば、顧客先ではコンセントにさすだけで使える状態になっている」と、生産方式をガラリと転換したことを示した。

NECコンピュータテクノの売上高の推移と内訳 NECコンピュータテクノが採用する生産システム B.T.O.対応の生産システム
NECコンピュータテクノの売上高の推移と内訳。スーパーコンピューターやメインフレームに代わって、オープンシステムの台頭が目立つNECコンピュータテクノが採用する生産システムB.T.O.対応の生産システム
NECコンピュータテクノが、“自分なりに理解して取り入れた”というトヨタかんばん方式の全体構想 Expressサーバーの生産ラインの改革 大型コンピューター機器の生産ラインの改革
NECコンピュータテクノが、“自分なりに理解して取り入れた”というトヨタかんばん方式の全体構想Expressサーバーの生産ラインの改革大型コンピューター機器の生産ラインの改革

最初に工場から不要機材を一掃して、フラットなフロアーをつくり(相当の投資で完成させたという最新の部品調達装置を取り付けた“自動倉庫”も取り払った!!)、そこに組み立てのラインを新たに構築。翌年には1人完結のセル生産方式を採用したが、2000年にはさらなる効率化を目指して少人数のライン生産を採用し、当初のベルトコンベア方式による生産ラインの約1/4の面積(距離にして40m⇒10m)で生産を可能にした。これを実現したのが、“みずすまし”と呼ばれる部材調達専門員の活用で、部材の減り方がわかるようになり、生産ラインのボトルネックの顕在化、余剰資材の削減、棚卸しの不要による間接人員の削減(40%減少)など、さまざまなメリットがあったという。この生産ラインの改良は現在も刻々と進めており、工場の床にはその進化(ライン短縮)の跡を、日付を書き込んだガムテープを貼り付けることで確認できるようになっている。

部材ストアの面積削減 生産性向上と間接人員の削減
部材ストア(保管場所)を約50%に面積削減3倍の生産性向上と、間接人員の40%削減を達成
生産リードタイムの短縮 倉庫面積や倉庫数、物流費も減少した
Expressサーバーでは1/5に、スーパーコンピューターでも1/4に生産リードタイムを短縮したという倉庫面積や倉庫数、物流費も減少した
活動成果の一部

工場内の模様

これが受注内容を部材単位まで細かくしめした、いわゆる“かんばん”と呼ばれる発注書 NECコンピュータテクノ自慢の機材のひとつ、“VPSリフロー方式”のはんだ付け装置の解説
これが受注内容を部材単位まで細かくしめした、いわゆる“かんばん”と呼ばれる発注書NECコンピュータテクノ自慢の機材のひとつ、“VPSリフロー方式”のはんだ付け装置の解説。220度程度で沸騰する不活性液(必要な温度にあわせて液体の内容は変更する)の高温蒸気ではんだを溶かして、ピンタイプでもBGAでも、さまざまなパッケージを一度にはんだ付けできるという
なんと! NECのサーバーの検査にはPower Macが使われていた!! 工場内のさまざまな床に、こうしたライン短縮の軌跡を記すガムテープが張られている
なんと! NECのサーバーの検査にはPower Macが使われていた!! チップの配置やはんだ付けのエラーなどを光学的に検査して、エラーを見つけ出すラインの一部にPower Macが使われている工場内のさまざまな床に、こうしたライン短縮の軌跡を記すガムテープが張られている
サーバーの組み立てラインは“風・林・火・山” 部材コーナーは“巨峰”“甲州”“甲斐路”“ベリー”“白桃”という品種やフルーツの名前で呼称 サーバー組み立てライン
山梨という土地柄を示す発見、その1。サーバーの組み立てラインの“かんばん”管理ボックスには、ラインごとに風・林・火・山と分けられていたその2。部材管理のコーナーは“フルーツ村”と呼ばれ、組み立てる機種ごとに“巨峰”“甲州”“甲斐路”“ベリー”“白桃”という葡萄の品種やフルーツの名前で呼称されている!サーバー組み立てライン。手前の黄色い円板はターンテーブルになっており、背面の結線やパーツ装着も組み立て者の移動距離を最小限にして、生産時間短縮を図っている。現在はリフト付きキャリアーを使って、筐体に機材を装着しているところ。なお、黄色いゼッケンはサーバー組み立て者専用で、このほか“みずすまし”担当者、ライン監督など、役割に応じて色分けされたゼッケンを装着している。これも生産性向上のための工夫とのこと

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