電力系キャリアのアクセス回線
現在ではインターネットが一般的に普及しており、これを支える安価で高速な通信環境が求められている。こうした需要に応え、非NTT系も含めた幅広い通信事業者がCATVインターネットやxDSL、無線インターネットなどの新しい接続サービスを開始している。今までこうしたアクセス回線の敷設はNTTのみに大きく依存していたが、唯一幹線網から地域網までをエンド・トゥ・エンドをNTT抜きで構成しうる勢力として電力系キャリアがいるわけである。
電力会社がユーザー宅に回線を引き込むことができるのは、やはり電柱などの公衆インフラの敷設権を持っている点が大きい。この利点を生かして、国内の各電力会社はユーザー宅に引き込んでいる「低圧配電線」、俗に「引き込み線」と呼ばれる回線によって高速なインターネット接続を実現しようとしている(図8)。
今年の7月に発表された九州電力の「インターネット高速化実験」がまさにこれにあたる。この実験はユーザー宅にもっとも近い電柱までを九州電力が光ファイバ化し、その電柱に約5戸に1戸の割合で親機モデムを設置する。この親機モデムとユーザーに貸与した子機のモデムを、電柱から家屋までの既存インフラである引込線を用いて接続するのである。速度は3Mbpsで、インターネット接続は電力系地域プロバイダであるQTNetが担当する。ユーザーは電力会社から貸与されたモデムの電源をコンセントに接続するだけで、インターネットが楽しめるというわけだ。
OFDMにより3Mbpsを実現
この九州電力のインターネット接続実験には、三菱電機の高速電灯線モデムが使われる。9月には電波法の定める周波数帯域内で3Mbpsという高速な電灯線モデムの開発を発表しているが(http://www.melco.co.jp/news/2000/0907.htm)、これこそがこの実験に用いられるものである。
さて、既存の電波法上の制限である10~450kHzという周波数帯域においてなぜ3Mbpsという高速なデータ伝送速度が実現されるのか、疑問に思う方も多いだろう。実は三菱電機では既存のスペクトラム拡散方式ではなく、OFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing:直行周波数分割多重方式)という技術を用いて、この速度を実現した。OFDMはいわゆる「マルチキャリア」と呼ばれる方式で、地上波デジタルテレビ放送などに用いられる変調方式。利用可能な周波数帯域内を複数の周波数帯域でさらに分割し、多数のデータ搬送路(トーンと呼ぶ)によりデータを伝送する(図9)。
図9 OFDMの動作原理
ノイズがのったトーンは使わず、残りのトーンでデータを伝送するため、周波数帯域の利用効率がよく、高速化を実現しやすい。
また、高速化の実現とともに重要なのが、ECHONETのような低速な家電制御通信との同居を実現したことである。もとより三菱電機はECHONETのメンバーであり、こうした電力制御用途の通信を無視して高速化を実現するわけにはいかない。三菱電機では利用帯域やタイミングの制御などを動的に行なうことで、家庭内に張り巡らされた電灯線をECHONETの通信と共有して使えるようにしている。
三菱電機によると、このOFDMを用いた電灯線モデムの製品化は2001年の夏をメドにしており、ネットワークはとりあえず10Mbpsまでは射程に入っているとのことである。
無線と併用するアクセスライン
今回の試験期間は10月から来年の3月までで、 福岡市の早良区、南区の一部が対象で戸数は300戸程度。モニター募集はすでに終了しており、機器の設置などもすでに始まっているはずである。
この実験では、アクセスラインに電灯線を用いるほか、無線も併用する。機器の設置が難しい場所や信号干渉などに左右される家屋、集合住宅などでは一部無線も用いる。もちろん家庭内は電灯線ネットワークでも可能ということで、今後はこうした併存が進んでいくと思われる。
九州電力も主要都市への光ファイバの敷設と光ファイバケーブルの芯線貸しを進めているところであり、こうした「NTT抜き」のサービス事業は当初から目論んできたわけである。低圧配電線の機器の共通化は東京電力などと共同に行なっており、今回の実験のフィードバックが他の電力系の通信事業に反映されていくことになるだろう。Javaにより電力線ネットワークを実現する四国電力とアクセスの「OpenPLANET」などの具体的構想もすでに動き出している。