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ネットワークの入り口はコンセントだ

電灯線ネットワークの可能性

2001年02月27日 04時58分更新

文● NETWORK MAGAZINE編集部

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NETWORK MAGAZINE
 電灯線ネットワークの具体的な試みについてみていこう。一言で電灯線ネットワークといっても、その形態がいくつかある。大きくわけると家庭やビル内の構内LANを電灯線で構築する場合と、構内LANに加えアクセスラインまでを電灯線で行なう場合の2種類がある。当然、構内LANではユーザー宅やビルなど電灯線の所有者が任意にネットワークを構築することができるわけだが、敷地外でのアクセス回線は通信業者が敷設することになる。この中で歴史的にもっとも古いのが家電制御向けの低速電灯線ネットワークの分野である。



ホームオートメーションの試み

 LAN向けの電灯線ネットワークは主に家電制御を目的とした低速なホームオートメーション分野と、Ethernetのような高速通信分野の2種類に大別される(図1)。

図1 電灯線ネットワークの形態

図1 電灯線ネットワークの形態
低速/高速、LAN/WANの区別などで分類すると、現在では家電制御用途の低速ネットワークが主流。今後、電力会社の通信事業の一環として、LAN+WANの電力線通信サービスのモデルが注目されてくるだろう

ホームオートメーションは、たとえば台所に設置されたコントロールパネルからドア の施錠を解除するとか、お風呂を沸かすとか、各部屋の電灯のオンオフを行なうといった遠隔制御が実現される。通信モジュールはチップ化されており、これを家電や制御装置に埋め込むことで、双方向のデータ通信を実現する。

 こうしたホームオートメーション用途の電灯線ネットワークは、すでに20年以上の歴史を持っている。米国ではもっとも古典的と言える「X-10」をはじめ、インテロン(Intlleon)の「CEBus」やエシュロン(Echellon)の「LonWorks」といった技術がすでに実用化されており、規格に対応した電灯や制御装置を導入することもできる。

 もとより米国では、日本に比べて家屋の総床面積が概して広いため、家電や電灯の遠隔制御というのはかなり需要的にも高かったという事情もあるようだ。

ECHONETとは?

 こうした電灯線ネットワークの用途として、国内の電力会社や家電メーカーが進めているプロジェクトが「ECHONET(エコーネット)」である。1997年12月に松下電器産業、日立製作所、東芝、三菱電機の4社を監事会社(1998年にシャープと東京電力が加わった)として結成された「エコーネット・コンソーシアム」により、ホームネットワークの仕様が策定されている。コンソーシアムへの参加メンバーは、70社にまで膨らんでいる。

 もともとこうした取り組みが日本でなかったわけではない。1988年に日本電子機械工業会を中心に制定されたHBS(Home Bus System)は、UTPケーブルを宅内に張り巡らせ高速なデータ通信を可能にするための国内規格。家庭へのゲートウェイである情報分電盤を設置し、各部屋に「情報コンセント」を設けるという10年後を見すえた先進的な構想だったが、集合住宅やビル管理などの一部をのぞいて、結局一般化することはなかった。やはり新規にUTPケーブルを敷設する手間と当時ネットワーク対応機器の開発が困難だったという事情があったようだ。

 こうした過去の経緯を受け、ECHONETは、接続されるノードをエアコンや冷蔵庫といった白物家電やビルやマンションなどの空調設備に焦点を絞っている(図2)。

図2 ECHONETの描くネットワーク

図2 ECHONETの描くネットワーク
ECHONETでは、電灯や白物家電、空調機器などを中心に電灯線や無線経由でネットワーク化を実現する。ゲートウェイにより、外部との接続を行なうことで電力制御や福祉・医療などの「社会システム」と呼ばれる外部サービスを提供することを可能にする

そもそもECHONETは「Energy Conservation and Homecare Network」の略で、文字とおりエネルギー保護と在宅医療のためのホームネットワークの実現が目的となっている。そのため速度も低速(9600bps)で、ソニーのHAViのようなAV機器やコンシューマPCを対象としたエンターテイメント機器の家庭内ネットワークによるインターネット接続やビデオのストリーミング配信などの実現が本来の目的ではない。白物家電や空調機器に通信チップを埋め込むことで電力の制御を行なうというのが本筋というわけである。

オープンなECHONET

 ECHONETの仕様の第一版は2000年の7月に完成し、仕様書はWebサイトからPDFファイルとして配布されている(図3)。

図3 ECHONETの開発スケジュール

図3 ECHONETの開発スケジュール
当初は電力制御(DSM:Demand Side Management)を柱にしたネットワークの基盤作りからはじめ、その後アプリケーション開発向けのインフラを整備。国際的な普及活動やマルチメディアネットワークとの融合もはかる

 ECHONETの守備範囲はネットワークの物理層から、通信のためのミドルウェア、アプリケーションのAPIまで実に幅広い(図4)。

図4 ECHONETの通信レイヤ構成

図4 ECHONETの通信レイヤ構成
ECHONETの開発範囲はOSI参照モデルと比べて多岐に渡る。物理的媒体の依存せず、マルチベンダーへの対応を行なうためAPIやプロトコルの仕様を幅広く公開する

ECHONETには、1.配線不要な伝送方式を採用する、2.プロトコルだけでなく、システム自体をオブジェクト指向によりモデル化する、3.ネットワークの接続機能を階層構造化し、マルチベンダー環境でのホームネットワークを実現するオープンアーキテクチャ、4.オブジェクトモデルにアクセスする共通のAPIを提供することで開発の負担を軽減、5.システムの設置やインストールを自動的に行なうプラグ&プレイ機能の実現、6.アプリケーションの共通・基本機能をサービスミドルウェアとして規定する、などの基本目標が掲げられている。 対象となるのは、一戸建て住宅、集合住宅、店舗、小規模ビルなどに設置される設備系と呼ばれる施設だ。

 ネットワーク構成は、現在のTCP/IPネットワークに非常によく似ており、管理対象に対してアドレスを振り、サブネットで分割し、ルータで接続するというのはまさにIPベースで構成されたLAN環境と同じである。サブネットの集合はドメインという管理単位で扱われ、これが情報の伝達を保証する範囲となる。また、外部との接続はゲートウェイを介して行なわれ、アナログ回線やISDNで接続される。物理的な通信プロトコルとしては、電灯線通信のほか、無線通信、赤外線通信(IrDAコントロール)、拡張HBS、LonTalkなどのプロトコルなどの通信ソフトウェアが定義されている。

ECHONETとDSMの取り組み

 ECHONETが実現していることは、外部からのサービスの提供である。電力制御、セキュリティサービス、宅内機器の管理と操作、健康管理システム、高齢者ケアサービスなど、専門サービス業者が外部ネットワークから屋内のデバイスを制御することで行なうわけだ。こうしたサービス供給側からのDSM(Demand Side Management)の概念である。

 特に電力制御という観点でこのDSMは重要である。これは東京電力などが積極的に推進しており、電力会社側から家庭やオフィスでの電力需要のコントロールを可能にする。最近では、特に夏場の冷房負荷により、電力消費は年々危機的状況に近づいている。負荷の分散と省エネルギーを行なうという取り組みが、このDSMである。

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