グリップはカタログ数値より、使い勝手優先で詰めた
── ぶれない写真を撮るためには、持ちやすさも重要になってくると思いますが、このあたりのこだわりはいかがでしょうか。
上田 横方向から見ていただくと、グリップ側面の真ん中あたりが外側に少し膨らんでいます。ここはデザイナーがこだわった部分です。通常なら少しでも小さくするために出っ張らせないところだと思うんですが、本体の重量もこのクラスとして軽量とはいえ、一眼レフですから大型の重いレンズを付けて持ち運ぶこともあります。撮影時間も長くなる方向になる。疲労とともに握力が落ちても疲れにくいデザインにしなければいけません。カタログスペックだけを考えると躊躇する部分ではあるのですが……(笑)
岡崎 グリップに関しては指のかかり具合が重要になると思います。電池やメディアを収納しつつ前後方向をどれだけ縮められるかを相当詰めました。模型を作って実際に握り、デザイナーがカッターで削りながら調整したんです。指に関して言うと、グリップの内側に指先が当たってしまうので、ここにくぼみを設けてあります。もしくぼみがなく指を奥まで伸ばして握れないと、安定感が得られません。
── なるほど、非常に練ったグリップだと。α700も端子カバーを開けたらフタがきっちりとまるとか細部にこだわっている印象でした。
上田 こういうところに、デザイナーとメカ設計者のせめぎあいがあるんです。
── ボディーはマグネシウム合金製ですよね。型に流し込んで作ると思いますが、こういった複雑な形状にするのも難しいんでしょうね。
岡崎 最近はマグネシウム成型の技術も進んでいるので、かなりプラスチック成型に近い形状も実現できるようになっています。素材を型に対して噴射するような……。そうすることで、より細かい形状が実現できるわけです。
── ボディー内手ぶれ補正機構搭載のフルサイズ機としては、比較的コンパクトな印象もあります。
岡崎 小型化と軽量化にもこだわりました。フラッグシップ機というと、あらゆるジャンルに対応するため、大きく重くなる傾向がありますが、今回は1日持っても疲れないカメラにしたかったんです。この機種は(正式発表に先立って)PMAなどで、参考出品をしてきましたが、最初に展示したときと比較して、両肩の高さは2mm絞り込んでいます。
── 重量差は感じるのですが、見た目ではα700と比較しても、それほど大きくなっていない気がします。
岡崎 フルサイズ機なので、もちろん横幅は大きくなっています。しかし、ファインダー部を除いた高さはほぼ同じです。両肩が2mm下げることで、相対的に尖ったペンタプリズムのフォルムも生かされたかなと。
上田 ここもデザイナーとメカ担当の間で、相当なやり取りがありました。横で見ていて「また下がったな」と(笑)
岡崎 重量は850gですが、当初は70gぐらい重い想定でした。ボディーの肉抜きなど地道な努力で現在の重量に収めています。どこを削っていくかが大変でしたね。
── ボディーに関しては、防塵防滴も特徴ですよね。パッキンなど目立った仕掛けはないようですが。
岡崎 ボタン周りを中心に内部をゴムでシーリングしています。メディアのふた周りも、水やゴミが入り込みにくいように、入り込むまでの経路を長く取るようにしています。
上田 いかにもという仕掛けはないですが、形状の工夫で入り込まないようにしています。
岡崎 間に溝を設けたりして、ストレートに入らないようにしているんです。
ストロボにも注目、アクセサリーにもこだわった
── 長期間触ったわけではないのですが、発色の傾向はα700を踏襲した、鮮やかで透明感のあるものですね。色を作っていく上での狙いについて教えてください。
関根 臨場感を大事にしています。色相は本物に忠実であることを基本に、発色や鮮やかさについては印象や期待といった要素も意識しながら作っています。また色の濃さだけではなく、トーン(階調性)やエッジの表現、シャープネスなども重要です。クリアーで鮮やかな絵だけれど不自然ではないものを目指したつもりです。
── 黄色い花を撮ったんですが、とても鮮やかでした。色は各社の個性が一番出る部分ですが、好印象でした。あと、ストロボ(HVL-F58AM)がすごいな、と。縦位置グリップにストロボを付けると、物々しいですよね。発想としてはすごく面白いですが。
上田 ポートレートを撮ると縦位置が多いですし。縦位置でもバウンスできたらいいのではないかという提案を社内から受けました。ガンダムがアーマーをつけた感じというか、迫力ある外観になったと思います(笑)。
── なるほど。今回は面白い話をいろいろ伺えました。ありがとうございます。