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桜子のビジネスリーダーズインタビュー 第5回

IT業界で働く桜子のビジネスリーダーズインタビュー

メディアを取り巻くカンブリア爆発

2008年10月14日 04時00分更新

文● 桜子(Interviewer&blogger)

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メディア業界の未来はどうなる?

桜子 じゃあ、今後どこが成長できる場所なのかな?

岡本 難しいねえ。要するにどこがいいの? という質問にここですと答えると、既存の産業の枠組みで答える話になっちゃうんだよね。

 コンテンツビジネスやメディア産業というのはステップが5段階ある。まず、コンテンツを創造するクリエーションが第1段階で、宮崎駿さんが魚の子を主人公にして『ポニョ』にしよう、と考えたのがこの段階。2番目はこれを作る作業。3番目はそれを集めて編集する能力、4番目がさらにこれらをメディアに乗るよう変換する作業。インターネットならHTML、雑誌や新聞なら紙、テレビなら電波に変換する。そして最後が配給だよね。多分これを1回バラバラにしたほうがいい。

 メディア産業は、エンドユーザーにコンテンツのクリエイトから配給まで行うというバリューチェーンのうち、テレビや新聞は最初から最後まで全部押さえている。出版業界は企画など一部外部化されている部分もあるけど、書店はまったく別の産業でしょう? スタジオジブリのようにコンテンツを作る仕事だけやって、変換するのは配給会社というように、コンテンツの種類ごとにそういう仕事があって、升目ができ、それがチョキチョキ切れている。

 今までのモデルは、日本の1億以上の人達に直接話しかけられるdistribution(分配・配給)を持っている人が全部、お客さんを支配していたの。日本の制作会社はどんなにいいコンテンツを作ってもお客さんに届けるルートがないわけで、そのルートを持っている新聞社やテレビ局を通さざるをえない。これは利権なんだよね。利権を持っている人達を通す=貸し店料を払え、と。

 昔ビートルズが、貸し店料を払わない方法として、自分たちのコンテンツを直接お客さんに届けようとアップルという会社を作ったけれど、あれはクリエイターにとってまさに夢なんだよね。

 それで今、面を抑えているという“権利料”が下がってきている。インターネットで自由にアクセスできて情報が取れるようになってきているからね。生簀にボコボコ穴が開いちゃったから、逃げた魚は自由にモノが見られるでしょ。そうなると、魚が何を見たがっているか、一番よくわかっている人に価値がある。

桜子 ということは、マーケッターが一番有利なのかな?

岡本 違うな。単純にいうとセンスだよね。世の中をみてこのコンテンツがウケるという感性を持っている人。僕が著書で書いたのは、要はハリウッドモデル。ハリウッドというのは、今どんなタレントを使えば儲かるかを知っていて、かつそのタレントが集まっている規模の産業でしょ。ヒットの確率が1/10なら、映画10個出せば1個ウケるから残りの9個分カバーできる、とかね。規模の集積により元々はリスキーなビジネスを、全体として収支バランスが取れるようにしている。

 あとはアナリスト。僕は、誰が何を好きか、全部知っているから、僕に言ってくれたらウケる・ウケないの判断ができます、というマッチメイクをする人。企業でそこになりかけているのはAmazonだよね。書籍やビデオに関して膨大なコンテンツの中からレコメンド(=推薦)してくれる。

 それに対してテレビのコンテンツは似たり寄ったりで、インターネットのそれと比べると不遜だ。とはいえ、ビジネスモデルが視聴率である以上、それも仕方のないことだと岡本氏は語る。

岡本 僕が言いたいのはね、人間はやっぱり多様性があるべきだと。ある人にとって人生を変えちゃうようなメッセージやコンテンツって色々あったほうがいい。

 アラスカを追いかけ続けたことで知られる写真家の星野道夫は、若い頃、古本屋でアラスカの写真集を見つけたことがきっかけだった。その中にあったシシュマレフ村に魅了され、その写真を頼りに村長宛に手紙を書いたのである。“仕事はなんでもやります、日本の高校生です、誰か住まわせてください”村長からの返事はOK。そして移住をし、写真家になった。

岡本 きっかけは一枚の写真集。恐ろしいなと思ったんですよ、親の立場として。メディアが細分化していく今の流れというのは、そういうアクシデント的なメディアとの出会いを提供するのかもしれない。そして今後、それを経験する人が、もしかしたら増えるかもしれない。

 そんなアクシデント的な出会いは幸せをもたらすのか。星野道夫の人生は、彼にとって幸せなものだったのだろうか?

岡本 最期はクマに襲われて亡くなったわけだから不幸、という見方もできる。価値観の問題だけど、彼の本読んでいると、彼の人生は幸せだなというのと、深遠な何かにこの人が触れているんだ、というのが伝わってくるんだよ。叫び出したいような高揚感、残酷なまでの自由ということがね……。

 人生を変えちゃうようなコンテンツ、その言葉に身震いがした。人の生き方を変えるだけの影響力を持つコンテンツが、その人の人生において、導かれるべき正しいものにドライブしていくならいいけれど、もしそうでない、何か邪悪なものに引き寄せられてパワーが生まれるなら、それは非常に恐ろしいことだ。

 私たち一人一人にあるエネルギーが、無価値なものに向かって放出されるのではなく、真に価値あるものに向かって費やされるようにと切に思う。

 そうして、今書いているこの連載記事も、読者の方にとって少しでも役立つものになりますようにと願うばかりである。

岡本一郎(おかもと いちろう/Ichirou Okamoto)氏のプロフィール

岡本一郎氏

1965年、シンガポール生まれ。Royal College of Liberal Arts、慶應義塾大学文学部、同大学院修士過程修了。国内大手広告代理店、大手外資系コンサルティングファームに参加後、独立。







桜子(Sakurako/Cherry)のプロフィール

桜子

Interviewer&blogger 広告代理店・IT系企業を経て通信会社に勤務。5年前に「桜子の部屋・お友達の輪」というビジネスリーダーズインタビューを単独で開始。2007年シリコンバレーで活躍する日本人を取材に行く。日本人・外国人を含めた約50名ほどのインタビューを過去に実施。(http://sakurako.cc/




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