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池田信夫の「サイバーリバタリアン」 第29回

「最後の授業」がウェブに遺した教訓

2008年08月12日 09時00分更新

文● 池田信夫/経済学者

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がん宣告を受けた教授の最後の授業


 米カーネギー・メロン大学のランディ・パウシュ教授が、7月25日、すい臓がんで死去した。享年47歳。専門はコンピューターサイエンスだが、彼を世界的有名人にしたのは、その「最後の授業」だった。

 昨年、彼は医師から「余命は3ヵ月から半年」と告げられた。大学には、そういう教師が「最後の授業」を行なう慣例があり、それに従って彼は昨年9月に授業を行ない、その模様はビデオに収録され、大学のウェブサイトで公開された。ここまでは今までにもあった話だが、このあと「事件」が起きた。この1時間以上のビデオが、YouTubeにアップロードされたのだ。

最後の授業

YouTubeに投稿された日本語字幕付きの「最後の授業」



YouTubeがベストセラーを生んだ


 パウシュ教授の授業には、死を覚悟した悲壮感はない。最初に、彼のすい臓の10個の腫瘍のCTスキャンを見せたあと、「今日はこれ以上、病気については語らない。もう飽きたよ」といい、「ぼくは君たちの誰よりも元気なんだよ」といって、腕立て伏せをして見せた。「こういうときは、人生や霊魂や宗教などについて語るものらしいけど、今日はそういう話もしない」といったあと、彼はこう付け加えた「でも実は病床で改宗したんだよ──Macintoshにね」。

 授業のタイトルも「子供のころの夢を実現する」と題して、彼の色々な夢や、それをコンピューターで実現した様子をユーモラスに語るものだった。特に彼の専門だった3Dコンピューターグラフィックスについては、多くのアニメーションを見せて、それを生んだのは少年時代の夢だったと語った。最後に、彼の妻が登場した。この授業の前日は彼女の誕生日だったので、バースデーケーキが出された。彼らは抱き合って学生と一緒に「ハッピー・バースデー」を歌い、多くの人々が涙を押さえきれなかった。

 このビデオは数日で100万アクセスを集め、各国語に訳されて、全世界で1000万人近い人が見た。この反響をみて授業が本にまとめて出版されると、300万部以上のベストセラーになり、今週の月曜でもAmazon.comの第2位をキープしている。DVDも発売され、日本でもDVD付きの本が出た。これも最初はほとんど売れなかったが、映像をYouTubeに全部アップロードしたら、ベストセラーになったという。

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