作成する文章にはすべて目的がある
技術文章では、目的を決めることなく文章を書き出せば、支離滅裂になることは目に見えています。支離滅裂までいかなくとも、その文章を読む人に「文章を書いた意図」が伝わらないでしょう。
例えば、「システム化企画書」というソフトウェア文章があります。この文章の目的は何でしょうか? 多くの人はその目的を「コスト削減」とか「利益率の向上」あるいは「作業効率の改善」などと答えます。しかし、コスト削減も利益率の向上も経営の目的であってシステム化企画書の目的ではありません。さらに、作業効率の改善がシステムによってなされるのであれば、それはシステムの目的であって、やはりシステム化企画書の目的にはなりませんね。
システム化企画書の目的が正しく定義できなければ、システム化企画書は正しく作成できないことになります。これと同様のことは他のソフトウェア文章である要件定義書やクラス分析図などにも言うことができます。「目的が定義できない文章は作成することができない」と覚えておいて下さい。先のシステム化企画書も正しい目的は、「システム開発に着手できるようにするため」という点にあります。それゆえに目標は「システム開発に必要な予算を確保すること」と定めることができるのです。
出力帳票が40%減った事例
最後に、目的を明確にすることのメリットを1つの事例で示します。ある会社でシステムの再構築が検討されました。担当のシステムアナリストは帳票の出力が通常の会社より多いことに気付きます。そこで、その帳票を利用しているユーザ部門にヒアリングしました。「この帳票はどのようなことに利用していますか」と質問します。さらに「どのような目的でこの帳票を使っていますか」と重ねて質問しました。
目的がハッキリしている帳票については明確な答えが返ってきました。しかし、40パーセントの帳票に関しては「目的は分からないけれども必要かもしれないから、次期システムでも出力するようにして下さい」と答えが返ってきました。そこで、システムアナリストは、目的のはっきりしない帳票を出さない判断をします。それでもユーザ部門からは何も文句がこなかったそうです。その結果、新システムでは40パーセントの帳票を削減し、運用コストが下がりました。
このように目的が明確でないものは、結果として無駄になってしまっていることがあります。また、目的を整理するだけで業務改善につながることもあるでしょう。それほど目的は、重要なものなのです。技術文章も目的が明確でなければ、役に立ちません。そのことを肝に銘じて、技術文章を作成するときは、まず「目的を明確にすること」を大切にして下さい。次回は実践編として、UMLのうちユースケースを用いた文章の書き方を解説します。
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筆者紹介──福田 修
(株)CSK、日本インフォメーションエンジニアリング(株)を経て、テクノロジー・オブ・アジア(株)設立、代表取締役に。適切な情報技術の動向把握に長け、2000年問題の効果的解決、インドのSI会社との提携、Webアプリケーションへの取り組み、オブジェクト指向設計/開発の導入等を、早い時期から対応し、後発システムベンダへの指導的立場にある。著書に『SEを極める仕事に役立つ文章作成術』(日経BP社発行)がある。
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