「偽装請負」を禁じたらどうなるか
松下電器産業の子会社、松下プラズマディスプレイ(PDP)で請負契約によって働いていた労働者が、雇用契約の確認を求めていた訴訟で、大阪高裁は25日、雇用契約の成立を認めた。このコラムでは法的な問題には立ち入らないが、重要なのは、こういう判決がハイテク産業にどういう影響を及ぼすかだ。
松下に限らず、ハイテク業界では人材派遣や請負契約が多い。需要の変動が激しいため、正社員を雇うと状況が変わっても雇用を削減できないからだ。特に派遣労働者の規制が強化されたあとは、一定期間雇ったら正社員に「登用」しなければならないようになったため、そうした規制のない請負契約が増えた。ただ業務の実態は、契約元の会社で、正社員と一緒に働く場合も多い。
これを朝日新聞が「偽装請負」と名づけて激しいキャンペーンを繰り広げたため、厚生労働省も摘発に乗り出し、裁判所も請負契約を禁止する判決を相次いで出した。そういう温情主義は、ワイドショーでは拍手され、裁判官は正義の味方で、松下は「もうけ主義」の悪い会社だということになるだろう。
温情主義が弱者を苦しめる
しかし問題は、ここでは終わらない。こういう判例が定着して、請負契約が違法だということになったら、「コンプライアンス」を重視する企業は請負契約を打ち切り、需要の変動には正社員を残業させて対応するだろう。契約社員は教育や訓練をしてはいけないというのでは、ハイテク産業の仕事はできないからだ。一部の契約社員は正社員になるかもしれないが、正社員のコストは契約社員の倍以上だから、労働需要は確実に減少する。
雇用規制が強化されると失業率が上がることは、日本より解雇規制のきびしいフランスやドイツでも深刻な問題になっている。近視眼的な温情主義による規制強化は、企業収益を悪化させて官製不況をもたらし、結局、最も弱い立場の失業者を苦しめるのである。
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