ノウハウが利いてくるファインダー開発
── ファインダー視野率100%をこのクラスに持ってくるための苦労は、どのあたりにあったのでしょうか?
中村 Fシリーズのひと桁、Dシリーズのひと桁で培ったノウハウはD300でも生かされています。技術的な蓄積が必要になるため、取り組んだことがないと、なかなかまねできない部分ではないかと思います。
── コスト面での制約はあったのでしょうか。
渡部 高視野率を実現する際のハードルとしては、部品よりも調整のウエイトが高いと考えています。
ファインダーをのぞいて見える像と、AF素子や撮像素子に結像する像が一致するよう調整しなければなりません。そこをいかに合わせやすくするかという点にも配慮していますし、D200にはなかったそのための調整機構も設けました。組み立て時に調整作業が増えると、コストが上がってしまう面もあるのですが、それを極力減らすような設計をして、問題をクリアーしています。
檜垣 これまで100%視野率のファインダーを作れる工場は日本国内にしかありませんでした。D300を生産しているのはニコンのタイ工場ですが、現地にいる技術者のレベル向上を図って、実現できるようにしています。
機敏に動けば、音も良くなる
── 秒間8コマの連写性能はD2Xsの秒間5コマをしのいでいます。その実現のために何が改善されたのでしょうか。D200では撮像素子からの読み出し速度がボトルネックになっていたそうですが。
檜垣 まず、センサーや画像処理エンジンは秒間8コマの性能を持っています。(バッテリーパックの有無で生じる)秒間6コマと秒間8コマの違いに関しては、機械的な部分をどれだけ速く動かせるかの差で決まってきます。
── モーターなど使用する部品はD200と異なるのでしょうか。
渡部 メカに関しては、基本的にD200と同じですが、制御パラメーターを最適化しています。コマ速を高めるためには、高速に動いているものをうまく止める工夫が必要です。これは、毎機種、毎機種チューニングに苦労するところです。
今回の成果のひとつに「レリーズタイムラグ」があります。D200の50ミリ秒に対して45ミリ秒と、5ミリ秒の高速化が可能になりました。連写中の像消失時間も、D200の105ミリ秒に対してカメラ本体のみで90ミリ秒と15ミリ秒短縮しています。これは従来よりミラーなどが機敏に動いてくれていることを意味します。これに加え、D300では、耐久性を向上させるための調整も行なっています。
── 個人的には、連写の速度もそうなんですが小気味いい音。機敏に動いているなと感じさせる点が魅力に感じました
檜垣 音のキレのよさは、レリーズタイムラグや像消失時間といったニコンのスピードへのこだわりと表裏一体のものです。いい音にするには短時間に音が凝縮していたほうがいい。そして余分な残響を出さないということも気持ちよさにつながってきますから。
中村 「気持ちよさ」の部分は、これはカタログに書けない、書いても伝わりにくい部分なのですが、結構時間かけてやっている部分ですね。
── 「いい音」を出す秘訣についてもう少し詳しく教えてください
渡部 やはり、メカが緩慢に動いていると良くないんですね。機敏に動いてくれないといけません。あとは、ボディーやカバー部品の剛性も利いてくると思います。
ミラーが弾んでしまうと音として余韻が残ってしまうのですが、ニコンでは「ミラーバランサー」という仕組みを使い、ピタっとミラーのバウンドを抑え、モーターやシャッターそのものの音だけが残るようにしています。こういった音の質の部分にはこだわっていますね。
── 音の分析には測定器なども利用されるのでしょうか。
渡部 やっています。測定器を使って集めた音を解析することで、シャッターを切った際に「どんな音がしているのか」を把握できるようになります。基本的に音は鳴らないほうがいい。これらはF5など歴代のフラッグシップ機で培った技術が生きています。こういった経験が集大成されて、ようやくこのクラスの製品にも採用できるようになったのです。