隈元辰浩さん
ブリスポイントネットワーク株式会社
IT関連の設備投資を行なう企業の増加と、それにともなうプロジェクト数の増加を背景に、プロジェクトマネージャー(PM)の需要が高まっている。その影響でここ数年、プロジェクトマネジメントの国際的な専門資格「PMP(Project Management Professional)」の受験者が急増している。試験はプロジェクトマネジメントに従事している人を対象としているが、PM経験者であるがゆえに間違えやすい出題があるという。そこで、PM経験者がPMPを受験する際の注意点や対策を、PMP試験対策を主催しているブリスポイントネットワークの隈元辰浩さんに聞いた。
PMP試験の合格の必須条件は、PMBOKガイドに書かれている“考え方”を理解すること
PMP試験は、PMPのバイブルと言われる「PMBOK(Project Management Body of Knowledge)ガイド」の考え方をしっかり理解していれば解答できる問題と、PMBOKガイドの内容から一歩踏み込んだ問題、PMP職務規定(PMPが遵守すべき行動規範)に関する問題で構成されています。PMBOKガイドに書かれていることが、そのまま問題になっているのは全体の約3割にすぎません。そのため、受験者に話を聞くと「出題された問題は初めて見るものが多かった」と口をそろえます。
試験対策としては、まずはとにかく問題集などで、どのような試験問題が出るのかをよく把握することです。試験はすべて英文の4択式で、200問(4時間)出題されます。合格ラインは正解率61%以上。試験はほぼ毎日開催されていて、受験者は自分の都合のいい日に受験することができます。
試験日を選べるわけですし、ほとんどの受験者は十分に勉強し、“お試し受験”などではなく合格を信じてテストに臨んでいるはずです。にもかかわらず合格率は6割。つまりこの合格率が示す以上に、試験の難易度が高いと言わざるを得ません。
では、自分の学習レベルが合格ラインに達しているかどうかを、どうやって判断したらいいのでしょうか。その目安は、自分が使っている問題集を完璧に解けるようになり、初めて向かった別の問題集で正解率70~80%に達したときと考えてよいでしょう。
また、この正解率は、実試験では下がることも考慮しなければなりません。つまり、さらに10%~20%減算したものしか本試験では獲得できないと考える必要があるのです。
たとえば、本番の試験環境の問題があります。もともとPMPは英語表記ですが、試験では日本語での翻訳表示も可能です。しかし、それらは日本人が翻訳した文章とは思えない日本語表現もあり、問題文の理解に苦労することがあります。対策として、PMBOKガイド独特の表現や単語をあらかじめ英語で意味を理解しておくなどありますが、本番試験で獲得できる点数は、問題集での獲得点数より下がることは十分考えられます。
経験者が陥る「問題の傾向と対策」
■問題
プロジェクトの進行にともない、ステークホルダーの影響力がもっとも大きくなるのは、次のうちどれか。
A. 立上げ
B. 計画
C. 実行
D. 終結
■正解
「ステークホルダー」はPMBOKガイドに頻繁に登場する重要語句で、プロジェクトおよびプロジェクトの成果からプラスまたはマイナスの影響を受ける利害関係者のことを指します。プロジェクトに関与するさまざまなステークホルダーの影響力と、プロジェクト・フェーズ(プロジェクトの行程)との関係についての理解が試される問題です。PMの実務経験を通して考えると、実行フェーズ(行程)で細かいことにまで口を挟んでくる上司や、終盤になって当初は聞いていなかった無理難題を言ってくる顧客などを思い浮かべて、「C.実行」や「D.終結」と答えてしまいがちです。しかし、正解は「A.立上げ」なのです。
本来PMは、プロジェクトの初期段階でステークホルダーの期待事項と合意できたら、段階的に詳細を練る過程で、次第に「あとは任せた」と見守られるような状況を作るべきなのです。プロジェクトが終わりに近づくにつれて、ステークホルダーがプロジェクトに対して要求を強めていくのは、プロジェクトが彼らの期待する方向に進んでいないからであって、決して望ましい状態ではありません。 PMBOKガイドでは、下の図のようにプロジェクトの進行にともなってステークホルダーの影響力が減少していくのが理想とされています。これは影響力が自然と低減していくと言っているわけではなく、ステークホルダーの影響力が次第に低減するように、強い意思でプロジェクトを進めていくのがPMの仕事だということを表しているのです。
プロジェクト進行におけるステークホルダーの影響力変化 |
もちろん、すべてのステークホルダーの期待をそのまま受け入れることは多くの場合不可能です。プロジェクトマネジメントは、プロジェクトの早い段階でステークホルダーの期待やニーズを掘り起こし、プロジェクトの目的を前提として予算や納期、スコープ(成果物のクオリティ)のバランスを実現可能な状態に落とし込むことが必要です。ときには、ステークホルダー間で対立している期待事項の調整や交渉も行わなければなりません。
この問題は「一般のプロジェクトではステークホルダーの影響力が最も大きくなるのはどれか」と聞いているのではなく、「本来、ステークホルダーの影響力をもっとも大きくすべきなのはどれか」と聞いているのです。だから、PMBOKの考え方に倣った「A.立上げ」が正解となるのです。
ここまで語ったように、PMP試験の問題は自分の経験をそのまま当てはめて回答すると正解にたどりつけないことがあります。でも、PMBOKガイドの考え方を理解していれば、先述した問題を間違うことはないでしょうし、ほかの応用問題も解けるはずです。PMP試験で必要なのは暗記力ではなく理解力が必要なのです。出題の中にはすべての選択肢が正しいと考えられるものもありまが、その場合は選択肢に優先順位を付けて、最も正解に相応しいものを選んでください。
PMP試験のための勉強は、PMとしてのプロジェクトの進め方を見直す絶好の機会でもあります。ぜひPMP試験を機に「プロジェクトのあるべき姿」を学んでください。
- ■取材協力
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