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松岡美樹の“ネットメディアの心理学” 第1回

ほめる“はてブ”、けなす“はてブ”

2007年02月01日 12時00分更新

文● 松岡美樹

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予想しないことが起こるからおもしろい


 おもしろいもので、ネット上に存在するサービスやツールは、開発者が予想もしなかった使われ方をすることがある。特にブログやSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)など、ユーザー自身がコンテンツを作る“CGM”(Consumer Generated Media)の分野でそんな例をよく見かける。

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YouTubeのトップページ

 例えば、米国の動画共有サイト“YouTube”は、もともとユーザーが自分で撮影した動画を公開/共有するためのサービスとしてオープンした。ところが、実際に人気が爆発したのは、2005年12月に米NBCのバラエティー番組“サタデーナイトライブ”(Saturday Night Live)の映像が投稿されてからだ。かくて今や押しも押されもせぬCGMの代表格である。

 「ひょうたんからこま」と言うが、ネット上ではまったく何が幸いするか分からないものだ。まあYouTubeの一件は「ラッキーだったね」と言うと、著作権者から抗議がきそうだが、それにしてもCGMではなぜこんなハプニングが起きるのだろうか?

 理由のひとつは、新しいサービスであればあるほどセオリーや慣習が固まっておらず、“あなたまかせ”になっていること。ふたつめは機能的な柔軟性が高く、コンテンツだけでなく使い方にまで“Consumer Generated”な余地があるからだ。



はてなは、はてブの二極化を想像していたか?


 例えば、(株)はてなが提供しているサービスのひとつに“はてなブックマーク”(通称・はてブ)がある。気になるブログやホームページの記事をネット上でブックマークし、他のユーザーと共有する“ソーシャル・ブックマーク”(SBM)である。SBMもCGMのひとつだ。

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はてなブックマークのトップページ

 はてブには大きく分けて“ほめるはてブ”と“けなすはてブ”がある。もっとも、はてな側がそんな決まりを作ったわけじゃない。ユーザーが勝手にやっていることだ。

 “おもしろい”“役に立つ”“仕事に使える”と感じた記事があれば、賞賛のコメントやタグを付けてブクマする。これがほめるはてブだ。普通に考えればこっちがノーマルな使い方だろう。

 じゃあ、けなすはてブとはいったい何か? 例えばどこかのブログを読み、「この言説はちょっとヘンじゃない?」と感じたとき。その記事をブクマし、タグやコメントで異論を述べるのだ。あるいはいわゆる“痛いニュース”を取り上げる場合など、もっぱら選者から見てネガティブな物件がまな板に乗せられる。

 つまり評価の手段に使うという点では同じだが、評価基準はプラスとマイナス、まるっきり正反対なのだ。同じひとつのサービスなのに、これだけ違う使い方がありえるってところが興味深い。



ムラ社会とモヒカン族


 ほめるはてブは無難な使い方である。日本的なムラ社会になじみやすい。だがけなすはてブは、そんなナアナアの世界じゃない。他人と軋轢が起ころうが、自分の意見を主張する。アングロサクソンな行為である。ネット上の流行語でいえば、“モヒカン族”ご用達と言えるかもしれない。

 ただし、けなすはてブには欠点もある。けなすはてブのコメント一覧には、ずらりといくつもの否定的な見解が並んでいる。すると中立の第三者が見たときに、「寄ってたかって叩いてる」とか「みんなで晒し上げてるなあ」みたいな印象を与えてしまうのである。情緒的な表現をすると、あんまり“いい感じ”がしないのだ。

 ただし異論を述べてる人たちは、事前に示し合わせたわけでも何でもない。粛々と自分の意見を書いたら、一覧画面で見ると結果的に“集団”になってるだけだ。ではなぜこんなふうにコメントスクラム的に見えてしまうのか? それは恐らく、はてブ上では“議論が成立しない”からである。

 反対意見に対してまとまった持論を書くには、はてブで使える文字数は少なすぎる。また、取り上げられた記事の筆者がはてなユーザーでなければ、そもそもコメント自体書き込むことができない。

 もちろん自分のブログで反論エントリを立てれば、モノは言える。だがもともとの異論が寄せられた同じスペース上(はてブ上)で論駁し、双方向の議論ができない点は変わりない。これができない限り、たぶん“言われっぱなし感”“晒し上げ感”はなくならないだろう。

 ちなみに私自身は議論が好きな人間だ。自分と違う意見、違う価値観に遭遇すると、「なるほどそんな考え方もあったのか」と新しい発見ができるからである。

 ゆえに他人のブログを読んで「これは違うだろう」と感じれば、反対意見を書いて相手にどーんとトラックバックを送る。で、相手がさらに反論すれば、イーブンな議論ができる。だけどはてブ上ではそうは行かないね、って話だ。

 そもそも議論するのが目的で開発されたサービスじゃないんだから、当たり前の話なのだが。

 てなわけで私自身は、けなすはてブはあまりやらない。もちろん道具の使い方は人それぞれだから、どっちがいい悪いの問題じゃない。“私は”やらないというだけの話だ。

 それにしても果たしてはてなは、はてブのこんな二極化を予想していただろうか? ……やっぱり“道具は勝手に走り出す”のである。

(ASCII24:2006年11月21日掲載記事より転載)

松岡美樹(まつおかみき)

新聞、出版社を経てフリーランスのライター。ブロードバンド・ニュースサイトの“RBB TODAY”や、アスキーなどに連載・寄稿している。著書に『ニッポンの挑戦 インターネットの夜明け』(RBB PRESS/オーム社)などがある。

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