“はてなブックマーク”(はてブ)で、ブクマされた記事は、より多くの人に読まれる。そのぶんアクセス数もハネ上がる。記事を書いた本人にとって、こんなにうれしいことはない。しかも人間の心理として、「何人の人間にブクマされたか?」で記事の優劣が決まるかのような錯覚に陥りがちだ。
たかが1票、されど……
例えば、2人にブクマされてる記事を見ても、「おもしろい記事なのかも?」程度で終わるかもしれない。だが50人にブクマされているのを見ると、「ものすごくおもしろいにちがいない!」と思ってしまうのだ。かくてブロガーは、1人でも多くの人にブクマされたいと渇望するようになる。
そこで怪しく登場するのが“セルクマ”である。セルクマとは、“セルフブックマーク”を略した通称だ。つまり自分で自分の記事をブックマークする行為を指す。
「なーんだ、自分ひとりがブクマしたって1票にしかならないじゃないか」
こう思うのはまだ早い。セルクマには“使いどころ”があるのだ。はてブのしくみを知らない人のためにちょっと説明しておこう。
はてブで3人のユーザが任意の記事をブクマすると、その記事ははてな側が用意した“注目エントリー”ページに掲載される。つまり“この記事は複数の人がブクマしている注目株ですよ”というわけだ。実際、この“注目ニュース”欄を毎日チェックし、その日に読む記事を探している人も多い。
となると、“3人以上がブクマするかどうか?”が記事の“売れ方”に影響することになる。雑誌や書籍でいえば、本屋さんの店頭の目立つ場所にドーンと平積みされるのか? それとも棚の隅っこにひっそり置かれるのか? みたいなちがいが発生するのだ。
とすればブロガーにとって、自分の記事が“2人”にブクマされた状態のまま、どんどん時間がたつのはヘビの生殺しに等しい。
「ああ……。あと1人だ。あとほんの1人がブクマしてくれさえすれば、オレの記事は“注目エントリー”の晴れ舞台に載る。そうすればたくさんの人目に触れ、ドッとブクマ数が増えるかもしれないのに……」
ここで黒い悪魔が彼にささやく。
「やっちまえよ。簡単だろ。自分でさっさとセルクマすりゃいいじゃねえか」
だが一方、彼の中の白い天使がこう反論する。
「そんな卑しい宣伝行為をしてまで、お前は注目されたいのか? だいいち、3人しかブクマしてないうちの1人が自分だと目立つぞ。逆にみっともないと思わないか?」
さあ果たして彼は“やる”のか、“やらない”のか。かくてセルクマをめぐり、欲望と功名心が渦巻く人間ドラマが展開する。
またセルクマには、もっとブラックな方法もある。はてなではメインアカウントのほかに、1人でサブアカウントを2つまで取得できる。これら合計3つのアカウントを使えば、同じ記事を常に3人がブクマしている状態を作り出せるのだ。
功名心ばかりではない
と、こう見てくるとセルクマはまるで悪の権化のようである。実際、私も初めはそう思っていた。だが“セルクマ”で検索をかけて調べてみると、実は案外そうでもないらしいからおもしろい。「人に読んでもらいたいと思う記事なら、堂々と自分でブクマすればいいじゃないか。何が悪いんだ?」という人もいるし、ユーザによって解釈がさまざまなのである。
またセルクマの用途によっても、ちがいが出る。たとえば自分の記事をかたっぱしからブクマしておき、あとでタグを使って検索するなど自記事を分類/管理するためにセルクマする人もいる。
つまり他人の記事を評価するためではなく、自分のために役立つ情報整理術の一環としてセルクマするわけだ。
こういう人のブクマは、そもそも功名心やら自己顕示欲とは関係ない。だから「セルクマは卑しい行為だぞ」などと非難されても、「それ、なんのこと?」てなもんである。要は、それだけ人によって道具の使い方がちがうってことだ。
ちなみに私も過去に一度だけ、セルクマしたことがある。それは、私の記事をブクマした人が残したコメントに対し、こちらもコメントを返して応答するためである。セルクマにはこういう使い方もあるのだ。
ただし……何度もやるとあらぬ疑いをかけられる恐れがあるから、要注意ではあるが。
(ASCII24:2006年12月5日掲載記事より転載)
松岡美樹(まつおかみき)
新聞、出版社を経てフリーランスのライター。ブロードバンド・ニュースサイトの“RBB TODAY”や、アスキーなどに連載・寄稿している。著書に『ニッポンの挑戦 インターネットの夜明け』(RBB PRESS/オーム社)などがある。
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