金子健二さん、30歳。東京・世田谷にあるNPO法人Check(チェック)の理事を勤めている。
公園を歩きながらiPhoneを起動し、1つのアプリを立ち上げた。そこにはたくさんのピンが地図上に表示されている。
「ここのトイレなら広いので、介助者も3人は入れますね」
画面を見ると「オストメイト対応」など見慣れない項目が並んでいる。アプリの名前は「Check A Toilet for iPhone」(iTunes Store)。高齢者や障害者にも安心して使えるトイレの情報が、日本全国で3万件以上は登録されている。価格は無料だ。
その情報はきわめて詳細で使いやすい。介護師やヘルパー、また高齢の親を持つ子どもたちの間で、アプリはクチコミを広げている。いま社会の関心を集めているユニバーサルデザインプロジェクト。これをたった一人で始めたのが、金子さんだ。
情報がバラバラだった
トイレがどこにあるか分からない。それに気付いたのは2002年。小さな旅行代理店に勤めていた金子さんは、介護施設や老人ホームに向けた旅行プランを作っていた。
ベネッセなど大手企業が福祉事業に力を入れ始めた「バリアフリー元年」と言うべき年だった。だが、あまり長距離を移動できないため粗利は少なく、旅行先で何かトラブルがあったときのリスクも高い。そんな理由で他の代理店はほぼ手をつけていなかった。
そこに目を付けた金子さん。だが、軽井沢旅行の企画で頭を抱えた。榛名山行きのシンプルなプランだが、当時、高速道路のドライブインには車椅子マークのトイレがひとつもなかった。まともな介助ができるかを調べるために、周辺の施設をチェックした。
「一件ずつ連絡をとりました。トイレはあるか、あったらどんなトイレなのか。どんなトイレの設備か分からないので写真が欲しかったんですが、当時はインターネットが浸透し始めたばかりで、写真をメールしてくれというのも難しくて」
そんなに公衆トイレの情報はまとまっていないものなのか。疑問に感じた金子さんは、観光協会や社会福祉協議会、障害者団体にも問い合わせた。確かに冊子があることはあったが、発行はあくまで任意。自治体によって管理もまちまちで、発行が10年前のまま無更新ということもザラだった。
そのとき、彼の頭にひとつのアイデアが浮かんだ。その情報をすべてまとめた地図サイトがあったらどうだろうか。