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小島寛明の「規制とテクノロジー」 第262回

政府がアップル、グーグルへの課税強化

2023年12月19日 07時00分更新

文● 小島寛明

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 各社のニュースは自民党の政治資金問題一色だが、政府・与党は、IT大手に対して、課税を強化する。

 自民党と公明党は2023年12月14日、2024年度の税制改正大綱を発表した。

 税制改正大綱は、翌年度の課税の方針をまとめたもので、この連載として注目したいのは「プラットフォーム課税」の強化だ。

 今回の改正は特に、アップル、グーグルに対する影響が大きそうだ。

 たとえば、スマホゲームの課金を巡っては、各ゲーム会社に対して消費税を課税していたが、海外メーカーが提供するアプリについては、アプリストアの運営元に対して課税するという。

アプリストアと消費税

 今回の記事を執筆するうえで、あらためてアップルから送られてきた領収書を見直してみた。

 いくつかのアプリをサブスクリプションで利用しているため、毎月アップルから領収書が送られてくるのだが、金額だけが記されていて、消費税に関する記載はない。

 海外メーカーのアプリもサブスクしているが、こちらにも消費税の記載はない。

 国内のアプリメーカーは、それぞれが消費税を収めているのが現状だ。

 アップルやグーグルが運営するアプリストアの中で、とくに売上が大きいのはゲームだ。

 ファミ通ゲーム白書によれば、2022年、日本で最も売上が高かったスマホゲームは「モンスターストライク」で、推定で約933億円の売上高だった。

 単純計算で試算すると、販売元のMIXI(ミクシィ)は、約93億円の消費税を納めていることになる。

 1位から4位は国内メーカーのゲームだったが、5位には約378億円の「原神」が入っている。

 HoYoverseというシンガポールの企業が運営元になっているが、親会社のmiHoYoは中国系企業だ。

 消費税額は単純に試算すると約38億円になるが、同社が日本の国税庁に消費税を納めているかどうかは確認できない。

 今回の税制改正大綱では、この点に大きな制度変更があった。

 海外の事業者がアプリストアを通じて日本でアプリを販売した際には、プラットフォームを運営しているアップルやグーグルが販売したものとみなして、消費税を課税することになる。

 海外の事業者のアプリの売上が年間50億円を超えた場合、「特定プラットフォーム事業者」とされ、消費税の課税対象になる。

 アマゾンなどもアプリストアを運営しているが、海外メーカーの売上が年間50億円を超えるかどうかはわからない。

 一方で、少なくともアップル、グーグルには大きな影響があるはずだ。

 海外メーカーは、日本でのアプリを値上げするなどして、アップルを通じて消費税を支払うことになる。

来年度の税金はどのように決まるのか

 毎年、年末になると決まって税制に関するニュースが見られる。

 これは、税制改正のプロセスに関係がある。

 企業は常に法人税を下げてほしいと主張し、消費者は消費税が高いと困ってしまう。

 そこで、さまざまな団体が毎年、それぞれの立場から税金のあり方についての要望を省庁に提出している。

 例えば、楽天グループの三木谷浩史氏が代表理事を務める新経済連盟(新経連)はIT企業が多い団体だ。

 新経連が10月に提出した要望では、たとえば、スタートアップに優しく、研究開発を促進できるように税制の見直しを求めている。

 こうした各団体からの要望を、各省庁がとりまとめ、与党に提出する。

 与党は、各方面からの要望を踏まえて、会議を開いて議論を重ね、年末に税制改正大綱を公表する。

 現在の与党は自民党と公明党なので、今年の大綱には両党の名前が入っている。

 この大綱をもとに、法律の改正案がつくられ、年明け以降の国会で審議されるという流れだ。

 税金は、人々の生活や企業の経営に直結する。それだけに、方針を一歩間違えると世論は敏感に反応する。

 岸田首相は政権浮揚を狙って所得税減税を打ち出したが、その内容は「しょぼい」と世論の反応は厳しかった。

 極めて取り扱いが難しいテーマだからこそ、まず与党が各方面の話を聞いて議論をするという制度の建て付けになっているのだろう。

もう一つの狙いは競争

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