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宇宙で1Gbpsのスループット 世界各国の衛星つなぐ光通信実現目指す

宇宙空間で大容量通信可能なネットワークを構築 ワープスペース

連載
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左から代表取締役CEO 東宏充氏、最高戦略責任者(CSO)・Warpspace USA CEO 森裕和氏

「宇宙ビジネス」という言葉があちこちで話題になっている。従来に比べ、低コストで衛星打ち上げが可能になり、衛星から得られたデータを元に、農業、漁業、林業などがビジネスの中身を大きく変えていこうとしている。ところが、データを取得するための衛星が多数打ち上げられるようになって以降、通信用の電波資源の不足が大きな問題となってきた。そこで注目されているのが、現在の電波を使った通信に比べ、大容量通信をリアルタイムに行なえる衛星間光通信だ。

 茨城県つくば市に本社を置く株式会社ワープスペースは、1Gbpsの衛星間光通信ネットワークの事業化を目指すスタートアップ企業だ。世界でも通信サービスのための基幹技術として活用した前例がない衛星間光通信を、日本発のスタートアップ企業が実現するために開発を続けているのだ。この新しいサービスを確立しようとしているのは何故なのか。他の企業などと競合し、勝ち目はあるのか。代表取締役CEOである東宏充氏、最高戦略責任者(CSO)でWarpspace USAのCEOである森裕和氏の二人に話を聞いた。

電波による通信の限界を光通信でカバーすること目指す

 宇宙空間で光通信を実現――ワープスペースが目指すのは、宇宙を結ぶ光通信サービスの提供だ。現在、宇宙空間には多数の衛星が飛び交い、宇宙で獲得したデータをビジネスに利用することが珍しくなくなった。ところがその結果、問題が起こっているのだという。

「現在、地上と宇宙間のデータ通信は電波で行なわれています。電波を使って宇宙で得られたデータを地上に降ろすことになるのですが、電波の特性上、拡散すること、干渉することをふまえて利用する必要があります。そのため、衛星のデータを利用する側同士が交渉し、協調した上で利用できる領域をある程度シェアしていかなければなりません。また、衛星が増えていったことで周波数帯域の枯渇といった課題もあり、現状の電波通信で宇宙のデータを地上に降ろすことにはさまざまな課題があるのです」と説明してくれたのは、ワープスペースの代表取締役CEOである東宏充氏。2023年3月15日付けで現在の役職に就任した。

「電波を使ってデータを送る通信環境が厳しい状況にある一方、衛星の数は増え、宇宙発のデータを活用したいというニーズは増えています。その代表例が天変地異への対応です。ご存知の通り世界的な気候変動が起こり、洪水が頻発するなど天災も増えています。衛星データを使って天候を予測する、被災状況をリアルタイムに把握するなど利用場面はいろいろありますし、即応的に衛星データにアクセスできるようになれば被害を少なくすることができるケースもあると思います。2023年2月6日にトルコとシリア地域で起こった大地震がありましたが、国境付近で起こったため、被害状況の把握が難しかった。ですが、衛星を利用すれば状況把握しやすくなったはずです」

 トルコ側の状況把握はできても、内戦状態のシリアの被害状況を把握するのが難しかったため支援が遅れたことが大きな問題となった。衛星から現状を把握することができれば、国境付近の被害状況把握が可能となり、必要な支援を早期に行なうことができたのではないかとも言われている。大きな天災が増加している中で、世界的に必要なデータとなっていくだろう。

 ところが、現状は衛星データを利用するためにはさまざまな制限がある。まず、利用者同士が協調することが必須となっている。利用できる時間も限られている。この状況では必要なデータを即利用とはいかないため、天災が起こっても即座に対応できないというわけだ。

「衛星間通信というアプローチに加えて光通信を利用することで、精度の高い、大容量データを迅速に地上に降ろせるようになります」と東氏は説明する。その説明を聞くと、今後、宇宙空間における光通信のニーズが高まっていくだろうと納得できる。

 さらに、現在は海底ケーブルがつながっていないためにインターネットが使えない地域の通信手段として宇宙からの光通信が活用できるのではないかという指摘もある。「我々の事業の場合、コンシューマ向けというよりは、ビジネス用途が中心とはなりそうですが、ニーズは確実に存在します」と東氏は話す。

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