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宇宙で1Gbpsのスループット 世界各国の衛星つなぐ光通信実現目指す

宇宙空間で大容量通信可能なネットワークを構築 ワープスペース

連載
ASCII STARTUP 今週のイチオシ!

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光通信を利用するためのシステム作りはスタートアップ企業にこそ勝機がある

 ワープスペースのウェブサイトには、光通信機器を搭載した中継衛星を打ち上げ、地上と即応的に接続できるネットワークシステム「WarpHub InterSat」を構築するという計画が紹介されている。データスループットを1Gbps、リクエストから伝送完了までの時間を30分以内、ほぼリアルタイムアクセス可能、規格は国際標準規格の通信端末を衛星に搭載していれば同じ規格の端末と相互運用が可能、さらに高セキュリティをも実現するという。現在の電波を使った通信で問題となっている、「リクエストから伝送までにかかる時間は数時間から1日以上」、「アクセス可能時間は90分のうち10分程度、「規格は波長別で、セキュリティも低い」といった課題をほぼクリアできることになる。

画像提供:ワープスペース

 確かにこれを実現すればニーズはあるだろう。

「顧客側と弊社の衛星に光通信端末を搭載し、1Gbpsという速度での通信を支える通信システムの開発を手がけています。光通信端末はサプライヤーより調達していますが、それを他の自社開発コンポーネントなどと組み合わせて、正しく、微細な制御をしたうえで、数百GBから数TBに及ぶ大容量の地球観測データを、我々の中継衛星がリレーして地上に転送するサービスです。簡単に例えると、光通信技術を使ったルーターのようなものといったらいいでしょうか。電波通信が限界で、大容量の光通信に切り替えるわけですから、より高速なものが望まれています。現在販売されている光通信端末の通信容量は2.5GBくらいですが、10GB、100GB、あるいはそれ以上のものが望まれています。それだけの高速通信に対応できるルーターで、なおかつ宇宙空間の強い放射線がある中に置かれても大丈夫という通信ができるようなものですね。さらにそこで利用するアプリケーションはまだありません。それを開発していきます」と東氏はアピールする。

画像提供:ワープスペース

 ITの世界にも、技術への評価は高くても一部の人だけが使っていた技術が、あるアプリケーションの登場で利用者が急増することがある。例えば仮想化技術は、ヴイエムウェアのような仮想化アプリケーションを提供するベンダーが登場したことで一挙に普及した。

「そうですね、ワープスペースでやろうとしているのもまさにそんなイメージです。衛星間光通信を普及させるために必須となるアプリケーションにあたるものを作ろうとしています」と、以前は企業向け情報システムのセキュリティ開発に携わったこともある東氏はうなずく。

 しかし、衛星間光通信実現のニーズが高まり、投資も行なわれているとなると参入企業もさらに増えるのではないか。東氏も、「参入する企業も増え、競争は激しくなってきていると思います」と認める。その中でスタートアップ企業のワープスペースに勝ち目はあるのだろうか?

「当社の強みのひとつは、森がもっている宇宙ビジネスのノウハウとネットワークが大きな武器になります」と東氏は話す。東氏が武器だとしているのは、最高戦略責任者(CSO)で、Warpspace USAのCEOでもある森裕和氏のことだ。

 森氏は、「日本の学歴でいうと中学中退かな(笑)」と話す、日本の学校とは合わなかったタイプ。英国に渡り、英エジンバラ大学の理論宇宙物理学部に飛び級入学し、首席卒業したという。理論宇宙物理学者であり、世界各国を飛び回り、個人の趣味で衛星データを買って遊んでいたというから、下手な企業よりも衛星データ活用に関する知識や人脈を持っている。

 森氏は衛星間光通信という新しいビジネスに取り組むには、大企業よりも自分たちのようなスタートアップ企業の方が向いていると指摘する。

 さらに、「自分たちをはじめとしたスタートアップ企業に共通しているのは、素早くPDCAを回し、素早く動けることです。まだどんなUIが最適なのかなど明確になっていないことが多いので、アジャイルに開発できる体制を持っている企業の方が優位だと思います。最近、大企業同士が合弁会社を作って光通信に取り組むという話も出てきましたが、素早く動いて、使いやすいものにどんどん作り替えるのはスタートアップ企業の方が向いていると思います」とこの分野で勝ち抜いていくことに強い自信を見せる。

 東氏も、「弊社には森に加え、最高技術責任者(CTO)の永田晃大は筑波大学を卒業後、衛星間光通信技術の研究をしていますし、JAXAで長いこと技術開発に携わってきたメンバーもいます。スタートアップ企業ではありますが、技術面で大企業には負けない陣容だと思います」と衛星間光通信という新技術を確立していくことに自信を見せる。

日本から世界で利用できるサービス実現目指す

 とはいえ、スタートアップ企業が衛星間光通信という技術を開発し、ビジネスとしてリリースすることは簡単ではない。まず、協業相手は日本企業だけでなく欧州や米国が多くなる。そういった世界各国の企業と協調していくことが必要だ。開発の範囲もソフトに加え、ハードウェア開発も必要になる。時間も資金もかかる。

 光通信を利用したビジネスが形になるのはまだ先だ。「2023年の前半、民間の衛星間光通信端末を搭載した米国の軍用衛星が打ち上げられ、実証試験が進められています。同様に、英国では民間企業が宇宙と地上との間における光通信の実証試験を予定しています。机上の空論ではなく、実証できる技術であることを示すのです。実ビジネスとして収益を得ることができるようになるのは、2025年からではないかと思います」と東氏は話す。

 開発を進めながら、2025年に収益を得るまでは、「パトロンの存在が不可欠でもあります。いろいろと支援を募りながら、衛星間光通信を実ビジネスに育てあげなければなりません」(東氏)と我慢の期間となる。

 我慢の時期を乗り越え、日本発のスタートアップ企業が世界に衛星間光通信サービスを提供するようになれば、「日本の技術も捨てた物ではない」と多くの日本人が自信を持てるのではないか。「絶対に実現したい」と話す東氏、森氏の願いが叶うのか、ワープスペースではビジネス実現に向け開発を続けている。

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