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ロードマップでわかる!当世プロセッサー事情 第666回

CPU黒歴史 思い付きで投入したものの市場を引っ掻き回すだけで終わったQuark

2022年05月09日 12時00分更新

文● 大原雄介(http://www.yusuke-ohara.com/) 編集●北村/ASCII

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Quark誕生秘話
試作品をなんとなく製品化したものだった

 そもそもなぜQuarkが生まれたかと言う話だが、どうも「たまたま作ったものがそのまま製品にさせられてしまった」らしい。当時インテルはIoTの市場で出遅れていた。IoTといってもエンドノードからクラウドまで構成要素は多々あるが、インテルはクラウドやエッジにはなにかしら顧客の要求に応える製品を出せるにしても、エンドポイントに対しての製品がまるっきりなかった。

IDFの基調講演でのスライド。この直前のスライドでは“IoTに求められる要求”として超低消費電力・接続性・省サイズ・セキュリティーを挙げていた

 そんなときに、たまたまアリゾナで、P54コアを使っていろんなものを作ってみていた中の1つにQuarkがあったらしい。というか、実はQuarkそのものは、2010~2012年ごろに、Douglas L. Davis氏(2019年までIoT Solution Groupと、2017年からはAutomotive Groupの両方のトップを務めていた)が、当時の上司だったKrzanich氏と一緒に作ったものだったらしい。

 もちろんこれは目的があって作ったというよりは、P54コアでなにかできないかいろいろ試してみたうちの1つということらしい。ただ当時組み込み部門を率いていたTon Steenman氏には評価されず(冷静に考えれば正しい)、ところがKrzanich氏がCEOになってDavis氏が組み込み部門を統括することになったことで「とりあえず他にないし、いいやこれ出しちゃえ」みたいなノリで投入されたらしい。

 案の定ブチあげた物の、誰にも使ってもらえない状況が続いた。いや、これを使えと言われてもそりゃ困るよな、という代物である。冒頭に紹介したEdisonも、2013年のIDFの段階では、500MHz駆動のQuarkをベースに構築されていた。ただ性能が低いということになり、その後Atomベースに切り替わったという経緯がある。

 一応2014年8月には、もう少しI/O周りの速度を改良したGalileo Gen2ボードが発表になったが、根本的な問題は全然解決せず、しかも大型化したとあっては「誰が使うんだ?」状態はまったく変わらなかった。

改良を加えたQuark SEを投入
本腰を入れてIoTビジネスに参入かと思いきや……

 以上のようにQuarkは見事にコケたわけだが、だからといってインテルはIoT向けに製品を出せませんとは言えない。そこでQuarkをベースにもう少しなんとかしたのがQuark SEである。このQuark SEは、P54Cに加えて32MHz駆動のSynopsys ARC v2 DSPコアを内蔵しており、ArduinoではこのARCコアを利用してSketchを処理するようになった。

 加えてADCやコンパレーター、PWMやタイマーなどMCUで一般的に利用される周辺回路を搭載したことで、だいぶ使い勝手も良くなり、性能も向上した。ただこうなるとP54Cコアを搭載した理由がもうさっぱりわからない。ARCコアだけでいいのでは? という気がしなくもないのだが、P54Cを抜いたらそれはインテルのCPUでなくなってしまうのが嫌だったのかもしれない。

 Quark SEは2015年1月に開催されたCESにおける基調講演でCurieというモジュールとしてまず発表され、ついでArduino LLCと共同でArduino 101/Genuino 101というArduino Uno互換ボードが2015年10月に発表された

ボタンサイズのモジュール製品「Curie」

Arduino Uno互換ボードの「Genuino 101」。6軸加速度センサーやBluetoothのサポートなどもあって、非常に便利なボードだったのだが……

 Arduino 101/Genuino 101はかなり使い勝手の良いボードであり、やっとインテルは本腰を入れてIoTのビジネスに参入したのだな、と喜んだのもつかの間。2017年7月にインテルは突如Curieの生産終了を発表。これによりArduino 101/Genuino 101も生産終了となってしまった。

 これに先立ち、2017年6月にはGalileo/Galileo 2Edison、さらには2016年に投入されたEdisonの後継であるJouleまで生産終了になっている。

 プロセッサーそのもので言えば、QuarlやQuark SEは2019年7月で受注停止、2022年7月に出荷終了であるが、生産そのものは2019年1月に完了した格好だ。この直後にインテルはIoTグループのエンジニアを大量リストラしたと報じられている。

 この当時のインテルはKrzanich氏が会社をあらぬ方向に突進させていた最中であり、コストをかけてQuark SEを作ったものの売上の伸びは芳しくなく、「もうヤメ」で一気に方向転換したのだろうが、これに付き合わされた同社の組み込み向けパートナー企業はたまったものじゃない。

 これ以降、インテルはIoTの中でも、特にエンドノードに対応した製品は一切提供できていないが、仮にまたなにか作ったとしてもパートナー企業がそっぽを向くだろう。

 上層部の定見のなさと言うか、とりあえずあるもの出しましたという舐め切った商品設計が、Quarkを黒歴史入りさせた最大の要因だと筆者は考える。

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