「東芝には、テレビも、家電も、パソコンもなく、メディカルもない。総合電機メーカーという感覚はもはやない。今回の再編は、総合電機メーカーの『解体』ではなく、未来に向けた『進化』である。未来に向かって進みたい」
東芝は、インフラサービスカンバニーと、デバイスカンバニーを、新規上場会社としてスピンオフし、3社体制に再編する計画を発表した。
エネルギー事業とインフラ事業を分社化
インフラサービスの新会社は、2021年度の売上高見通しが2兆1000億円。これを年平均成長率3.3%とし、2023年度には2兆2300億円に拡大。営業利益は2000億円を目指すほか、今後3年間で2160億円の設備投資、2320億円の研究開発投資、M&Aなどを含めた投資として350億円をそれぞれ計画している。
発電や送変電、再生可能エネルギー、エネルギーマネジメントを行う「エネルギーシステムソリューション」事業、公共インフラや鉄道、産業向けシステムソリューションを行う「インフラシステムソリューション」事業、官公庁・民間企業向けITソリューションを担う「デジタルソリューション」事業、エレベータを含む「ビル省エネソリューション」事業、リチウムイオン二次電池であるSCiBなどの「電池事業」で構成。東芝の綱川智社長兼CEOは、「革新的な技術とともに、専門分野に特化したソリューションを提供することで、再生可能エネルギーへの転換において、主導的な役割を果たし、地球規模で掲げるカーボンニュートラルの目標達成、インフラレジリエンスの向上に貢献する会社になる」と語る。
エネルギー×デジタルと、インフラ×デジタルを旗頭とし、「エネルギー分野およびインフラ分野における成長の鍵は、AI、セキュリティ、プラットフォーム技術との融合である。サイバーフィジカル技術を活用したソリューションを提供するビジネスへと転換を進める。デジタルを掛け合わせることで、国内トップクラスの地位を確立し、アジアを中心にグローバル市場でのシェア拡大を目指す」(東芝の畠澤守副社長)と語る。
かつては世界を先導する立場にあった半導体事業
一方、デバイスの新会社は、2021年度の売上高見通しが8700億円、これを2023年度には売上高8800億円を目指す。成長率は低く見えるが、メモリ転売分を除いた年平均成長率は3.3%となる。また、営業利益は540億円を目指し、営業利益率5%を維持。3年間の設備投資は1880億円、研究開発費は1530億円を計画している。
パワー半導体や光半導体、アナログICなどの「半導体」事業、データセンター向け大容量HDDの「HDD」事業のほか、半導体製造装置などで構成。投資計画では、パワー半導体製造設備の増強に加えて、半導体開発設備の能力強化、ニアラインHDDの供給能力増強を行うなど、厳選した分野に投資をしていく考えだ。
東芝の綱川社長兼CEOは、「デバイスカンパニーは、社会やITインフラの進化を支えるリーダーを目指す」と位置づけ、畠澤副社長は、「主要製品をグローバルに提供できるポジションを確立しているのが特徴であり、持っている技術を、利益と成長に結びつけることができると考えている」と述べた。
パワー半導体分野では300mmライン設備や、化合物半導体の開発などに積極的に投資。機器や社会インフラの電力効率の改善を加速させるという。パワー半導体の売上高は、2021年度の950億円を、2023年度には1200億円にまで拡大する計画だ。
また、データセンター向けのニアラインHDDでは、キーコンポーネントの開発協業により、大容量製品の開発を加速。データセンター顧客のサポート体制の強化にも取り組むという。ニアラインHDDは、2021年度には2000億円の売上高を、2023年度には2800億円に拡大する計画である。
そして、東芝そのものは、キオクシアと東芝テックで構成。キオクシアの株式については、現金化することになる。「キオクシアの株式は、株主価値の最大化を図りつつ、実務上可能な限り速やかに現金化し、手取金純額については、スピンオフの円滑な遂行を妨げない範囲で、全額株主還元に充当する」(東芝の綱川社長兼CEO)としたほか、連結子会社である東芝テックについては、「なにも決定したことはない」としながらも、「データ事業やデジタル化のなかで、欠くことができない会社である」と語った。
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