このページの本文へ

コロナ禍を生き残るためのテレワークの進め方 第3回

調査と事例から読み解く課題解決までの道筋

先行企業に学ぶテレワークの課題と成功のポイント

2020年08月07日 09時00分更新

文● 大谷イビサ 編集●ASCII

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

 コロナ渦における新しい働き方として注目を集めるようになってきたテレワーク。しかし、テレワーク自体は何十年も前から存在しており、企業が導入を尻込みしていただけだったのはあきらかだ。ここでは、アスキー内の記事を参照しつつ、テレワークの課題とその解決に向けた方向性を示していこうと思う。

テクノロジーは進化したが、テレワークは進まなかった

 日本のテレワークは、後のISDNとなるデジタル通信サービスのユースケースとして1980年代には始まっていたという。もちろん、国土が広大で、都市間の距離が長い北米では、当然それ以前からテレワークはスタートしており、オフィス以外で仕事を進めるという考え方自体は古くから存在した。とはいえ、当時はテレワークの前提となる通信インフラが貧弱で、インターネットもまだ一般的ではなかったため、とても実用フェーズではなかった。なにより、業務のためにオフィスに行くのが当たり前という考えは根強く(この考え方は今も根強い)、テレワークはテクノロジー、制度、風土などあらゆる面で現実味に乏しかった。

 しかし、テレワークが勃興してから四半世紀の時を経て、インフラとテクノロジーは圧倒的に進化したと言えよう。インターネットの登場により、離れた場所で仕事をすることが以前に比べてはるかに容易になり、かつ安価になったのは周知の事実。日本では、2000年代からインターネット回線ブロードバンド化と常時接続化が急ピッチに進み、後に登場するスマートフォンのインフラとなる携帯電話網も一気に整備された。

 インターネットの普及により、電話回線ベースだったテレビ会議はインターネットベースになり、コミュニケーションツールもメールが企業に深く入り込むようになった。また、携帯電話が電話専用の音声端末から、PCのように複数のアプリを利用できる万能通信端末であるスマートフォンに変化し、PCの代わりに利用されることも増えた。

 そしてこの10年で業務アプリケーションの多くがクラウド化した。企業はサーバーやデータセンターを持たなくとも、業務に必要なさまざまなサービスを迅速に利用できるになった。この中にはテレワークに必要なオフィススイート、コミュニケーションツールやWeb会議、コンテンツ共有サービスなども含まれており、アプリケーションという観点ではもはやオフィスで仕事をする理由はなくなったといえよう。

調査で見えてきたテレワークの課題

 こうしたインフラとテクノロジーの進歩にもかかわらず、日本では長らくテレワークが普及しなかった。東日本大震災や台風のような自然災害、あるいは長時間労働の抑制や女性の就業状況を改善するための働き方改革、そして2020年の夏期に開催される予定だったオリンピックなどは大きな潮流になったが、本格的にテレワークを取り入れたのはIT企業のほんの一部であった。テレワークの技術を支えるIT企業ですら、満員電車に乗って定時に出社するのは当たり前だったのだ。

 この状況を今回のコロナ禍は一気に変革する可能性がある。業務のクラウドシフトを進めていたWebサービス事業者は在宅勤務の導入を一気に進め、富士通、KDDI、日立製作所などのIT・通信企業も、「ニューノーマル」を前提に、テレワークの常態化を推進していくことを発表している。また、今まで「テレワークできる業務がない」という理由でテレワークに消極的だった企業も、部分的にでもテレワークを進めていく必要がある。政府もコロナ禍の長期化を前提にテレワークやデジタル化を積極的に推進していく見込みとなっており、もはやテレワークは避けて通れないだろう。

 緊急事態宣言以降、テレワークの導入が進んだこともあり、各社からテレワークにまつわるさまざまな調査が披露されている。

テレワーク経験者の6割以上が、書類や捺印対応でやむなく出社経験あり
https://ascii.jp/elem/000/004/004/4004948/

業務への支障で1割が「今後のテレワーク継続を断念」、デル中堅企業調査
https://ascii.jp/elem/000/004/022/4022286/

テレワークができない中小企業は大企業の2倍に、コンカーが調査
https://ascii.jp/elem/000/004/019/4019294/

初めてテレワークにチャレンジした人でも半数以上が生産性向上を実感、アドビ調査
https://ascii.jp/elem/000/004/010/4010499/

在宅勤務で「業務効率は下がった」が「今後も継続したい」―実態調査
https://ascii.jp/elem/000/004/014/4014755/

リモートワーク継続希望者は51.7% 部下の有無・性別で回答の割合に差異も
https://ascii.jp/elem/000/004/017/4017332/

日本国内で導入が進むテレワークだが、企業によってはまるで進んでいないところも。Dropbox調べ
https://ascii.jp/elem/000/004/019/4019694/

 これらの調査は調査対象や母数、地域の違い、マーケティング的な意図の違いもあり、共通項目を抽出するのは困難で、テレワークの実施率や継続の意向などは調査によってもかなりばらつきがある。

 とはいえ、ペーパーワークに課題があるのは明確だ。これまでオフィスに行くのが当たり前のワークスタイルだったので、捺印や承認など紙のワークフローがテレワークの足を引っ張っている。多くの会社で「はんこを押すために出社」「会社の書類を確認するために出社」という事態をなくしていく必要がある。これに関しては業務のデジタル化がいよいよ待ったなしであり、手軽に試行錯誤できるクラウドサービスをフル活用すべきだ。

 もう1つの課題は業務の可視性だ。こちらに関してはテレワークの有無に関係なく、本来必要になる業務改善と言えるだろう。業務が見えないとマネジメントに大きな負荷がかかるし、従業員の心理的な不安にもつながる。在宅勤務はとかく他のメンバーが働いている様子が見えないため、気軽に質問しにくく、孤独感に陥いりやすい。また、オフィスで普通に交わされていた雑談がなくなるため、アイデアも創出しにくくなると言われる。ビジネスチャットを活用したリアルタイムなやりとりやグループウェアによるスケジュールの可視化に加え、業務のパフォーマンスを見える化する仕組みも必要になる。

テレワークを実践してきたIT業界の知見に学ぶ

 こうしたテレワークの知見は、TeamLeadersの連載である「私たちの働き方カタログ」にも数多く蓄積されている。 特にテクノロジーを扱うIT企業は、こうしたテレワークに長らくチャレンジしており、他の業界に比べて多くの知見を有している。外資系企業だけでなく、GMOグループやサイボウズ、ドワンゴのような国内の企業も、いち早く全社テレワーク体制に移行し、さまざまな試行錯誤をアウトプットしている。コロナ禍以前からのテレワーク先駆者の知見をまずは共有しておこうと思う。

みんなでテレワークを推進すれば、満員電車は本当に解消できる(レノボジャパン)
https://ascii.jp/elem/000/001/934/1934175/

退職の申し出から導かれた全員リモートワークの必然性(ソウルウェア)
https://ascii.jp/elem/000/001/924/1924372/

20年ベンチャーが語る「続けてきたこそわかるリモートワーク成功の秘訣」(ブイキューブ)
https://ascii.jp/elem/000/001/853/1853154/

日数制限なしのテレワーク、7年続けられた秘訣を聞く(ネットワンシステムズ)
https://ascii.jp/elem/000/001/624/1624424/

電話がない会社に転職してきた、ある広報のとまどいと気づき(チャットワーク)
https://ascii.jp/elem/000/001/566/1566017/

ストレスフリーを制度化した「満員電車禁止令」導入の背景(オトバンク)
https://ascii.jp/elem/000/001/539/1539724/

オフィススペースを1/3にして全員リモートワークを実践したら?(シックスアパート)
https://ascii.jp/elem/000/001/534/1534961/

 記事を紹介するために、今回改めて読み直してみたが、最初からうまくいった会社はどこもない。時代の趨勢や社員のライフステージにあわせて、試行錯誤を繰り返し、ルールやテクノロジーを整備しつつ続けてきたというのが共通しているところだ。緊急事態宣言以降、導入を進めてみたものの、早々にテレワークをあきらめる会社もあるようだが、新型コロナウイルスの長期化が見込まれる中、長い目でテレワークに取り組んでいくことがなにより重要と言えるだろう。

カテゴリートップへ

この連載の記事
ピックアップ