性能だけでなく、社会問題の解決を目指している
理化学研究所の松本理事長は、「富岳は、Society5.0の実現を目指して開発してきたスーパーコンピュータである。Society5.0を目指すということは、様々なアプリケーションが動作することが求められる。多彩で、多種多様なアプリケーションに対応するために、コデザインと呼ぶ、ハードウェアとソフトウェアを並行して開発する手法を用いた」とする。
開発の初期段階で、ものづくり、ゲノム医療、創薬、災害予測、気象・環境、新エネルギー、エネルギーの創出・貯蔵、宇宙科学、新素材の9つの領域を重点分野に定め、これらの領域から、日本の社会課題解決に貢献することを目指した。
重点領域で利用される典型的なアプリケーションを「ターゲットアプリケーション」と呼び、それぞれのアプリケーションでベストな性能が出るようにアーキテクチャーを設計し、チューニングをしてきた。このように、幅広いアプリケーションで性能を発揮できるようにチューニングしたことが、結果として、4冠獲得という偉業につながっているといえる。
松岡センター長は、「国民が高い関心を持つ様々な社会問題を解決していくことを目的に開発されたのが富岳である。Society5.0時代には、コンピュータシミュレーションとしての利用だけでなく、ビッグデータやAI、エッジコンピューティングなどもカバーしなくてはいけない。富岳はそれに応えるために、あらゆるアプリケーションで最高の性能を発揮することを目的に開発した。あらゆるベンチマークで世界一になれたのは、それぞれのアプリケーションで最高性能を出すために開発した結果であり、決して、ベンチマークでトップを取るために作ったマシンではない」と語る。
松本理事長も、「富岳は、名前の通り、富士山のような高い性能ととともに、富士山が持つ広い裾野のように、幅広い対応力を目指している。言い換えれば、単にスピードが速いだけでなく、Society5.0に役立つインフラとして、AIやビッグデータ解析の分野でも優秀な性能を示すことを狙っている。今回の栄冠を得たのはそのおかげである」とする。
富岳では、スマホやIoT機器で広く使われている業界標準のArmアーキテクチャーを採用し、OSにはサーバーなどで広く利用されているRedhat Enterprise Linux 8.1を利用。それにより、幅広いアプリケーションが利用できるようになっている。これも、Society5.0に役立つインフラとして設計、開発された富岳の大きな特徴だといえる。
松本理事長は、「富岳が最初に取り組んだテーマが、新型コロナウィルス対策である」とする。
理研は、文部科学省との連携により、2020年4月から、新型コロナウィルス対策に貢献する研究開発に対して、計算リソースを提供。同時に技術サポートも行なっている。
まだ、整備段階であるため、富岳の整備に支障がない範囲でリソースを供出。まずは、全体の6分の1の計算リソースを使って、先行的に利用できるようにした。
「その後、リソースが増やせるところは増やして、アプリケーションなどを利用できるようにしている」(石川プロジェクトリーダー)という。
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