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さくらの熱量チャレンジ 第30回

産学医がタッグを組んだ医療電源の開発プロジェクトを追う

大震災を経験した東北の医療現場を救うワンダーパワーステーション誕生の舞台裏

2019年02月19日 09時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp 写真●曽根田元

提供: さくらインターネット

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データ分析を次の製品開発に活かす

 sakura.ioには蓄電池自体の稼働実績を見ることで、製品の改良や開発に活かすという導入目的がある。前述したとおり、本来リチウムイオン電池は材料や電解液の選択により、用途に合わせたさまざまな電池が作れるはず。白方特任教授は、「少量設計・少量生産でニーズに応えるべく、みなさんが注目してこなかった新しい特性を活かした開発を進めるためにもデータは必要です」と語る。

 白方氏とともにフルインターカレーションリチウムイオン電池に取り組む東北大学の伊達知秀氏は、「雨でもきちんと充電できるとお話ししても、納得されない方も多い。でも、sakura.ioでリアルタイムに収集した発電データを統計的に解析すれば、説得力を持たせることができます。日光や気温の違いによる充電量も出せますし、必要な発電量を満たすためのパネルの枚数も割り出せます」と語る。

東北大学 未来科学技術共同研究センター(NICHe) 先進ロジスティクス交通システム研究プロジェクト 電池技術応用G 特任准教授 伊達知秀氏

 稼働データを採取し、ネットワークで飛ばすという発想について白方特任教授は、ワンダーパワーステーションから得られるデータに関して、「運用データを集めることで、今まで見逃していたこともわかり、新しい“タネ”も得られました。得られたデータから、なぜこうなるのか?という理屈を組み立て、次の一手を打てます」と語る。

 こうして電池と通信が一体化すれば、運用や保守の現場は一変する。「たとえば、通信基地局のUPSとして並んでいる鉛バッテリを、安全なリチウムイオン電池に変え、遠隔監視できるようにすればメンテナンスはきわめて容易になりますよね。ちょっとした工夫やアイデアで、さまざまなビジネスが拡がるはずなんですよ」と白方特任教授は語る。もちろん、社会課題を解決するIoTも現実味を帯びることになる。荒木氏は「われわれもさまざまなIoT案件の引き合いをいただきますが、ネックになるのはやはり電力。通信規格は低消費電力化しているのですが、どうしてもデバイスの電池は交換しなければなりません。でも、自家発電と蓄電で問題が解決できれば、幅広い用途に利用できます」と語る。

東北が安全な電池の名産地になれば

 ワンダーパワーステーションは、5台の試作機を作った結果、商用版が2019年1月には出荷される見込み。試作機を導入した仙台医師会の現理事である安藤氏が運営する安藤クリニックでは、防災システムとしての威力を発揮した。「導入後、落雷による停電があったのですが、つないでいた会計システムはなんの問題もなく利用できたそうです。患者さんにご迷惑をおかけすることもなく、効果を実感なさっているようです」(杉山氏)。

 今回は家庭用蓄電池という利用例だったが、安価で充電効率の高い電池はありとあらゆる用途でニーズがある。IoTというと、とかく通信にフォーカスが行きがちだが、本当に重要なのは動き続けるための電力だ。「地震やなだれの観測は自家発電のスタンドアロンできるはずだし、5Gのためには中継局を数多く置かなければいけないはず。結局、電源どうするの?という話になったとき、小さい太陽光パネルで効率よく充電できるシステムは重要になってきます」と白方特任教授は語る。

 無限の可能性を秘めた白方特任教授のフルインターカレーションリチウムイオン電池は、東北大発ベンチャーの未来エナジーラボが試験生産中だが、今年度中には石巻のI・D・Fに技術移転する。I・D・Fは買い取った旧飯野川第二小学校の校舎をリチウムイオン電池工場に改修し、量産も進める。億単位での投資が必要なドライルームが不要なため、初期コストや電気代も抑えられる見込みだ。

量産も進むフルインターカレーションリチウムイオン電池

 市場として期待しているのは、東南アジアやアフリカ、南米など、電力インフラの脆弱な国々だ。エコや安全性、経済性などの観点で、原子力発電も、火力発電も作れない国はいっぱいあるが、シンプルで効率の高い電池と自然発電を組み合わせることで、地産地消の電力インフラを安価に構築できるという。「太陽光や風力発電などをベースにした小さな発電所を地元に作って近所に配り、余った電力はグリッドに流せればいい。そのために必要な電池だって、この技術があれば自分で作れる。完成品にこだわらなければ、セルだけを輸出し、現地で注液と充電を行なえば、その国での生産って言えるんです」(白方特任教授)。

 まずは宮城からスタートだが、次の段階では東北各県に生産地を拡げる。「世界からみれば、東京だろうが、仙台だろうが、もはや関係ない。意思決定の遅い大手メーカーよりも、小回りの効くオーナー企業の方が可能性が見える。別に技術を独占するわけではないので、地方の会社もこの電池で世界に出ればいいと思います」と白方特任教授。「仙台も牛タンだけじゃなく、安全な電池の名産地になったらうれしいですね」と目黒氏は笑う。

(提供:さくらインターネット)

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