このページの本文へ

躍進するAlibaba Cloud ― 第3回

AIとビッグデータ分析で中国都市部の交通渋滞を緩和する「ET City Brain」

通報の8割はAIから、オンプレ版Alibaba Cloudで稼働する大規模スマートシティシステム

2018年10月11日 13時00分更新

文● 羽野三千世/TECH.ASCII.jp

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

 中国アリババグループは、本社を置く浙江省杭州市の市政府と提携し、市内の交通渋滞と交通事故の課題を解決するためのスマートシティプロジェクト「ET City Brain」に2016年から取り組んでいる。

 ET City Brainは、Alibaba Cloudのデータ収集・処理・分析技術を使って(1)道路のライブカメラや警察が設置した監視カメラの映像、(2)タクシーや危険物を運ぶトラックなどGPSデータや運行情報、(3)通信事業者からのデータ、(4)バスなど公共交通機関の運行情報、(5)インターネットの地図サービスやナビサービスのデータ――を15秒間隔で収集・加工し、機械学習による交通渋滞の把握と予測や、Alibaba Cloudの画像認識AIなどを使った交通事故の自動検知、交通違反車両の追跡などを可能にするシステムだ。

ET City Brainの概要

 例えば、道路ライブカメラの映像をAIで分析し、車両の向きや走行方向の異常、長時間の停止といった異常を認めた場合は交通事故と判断して警察に自動通報したり、高速道路の走行を禁止されているエンジン非搭載バイクが高速道路に侵入したことを検知して警察に自動通報するといったことが、ET City Brainで実現されている。

道路ライブカメラや監視カメラの映像を分析カメラ映像から交通事故を自動検知(左)、ひき逃げ車両を自動追跡(右)

 現在、杭州市に設置された交通ライブカメラと監視カメラ約8000台のうち約4500台がET City Brainに接続されており、特に交通量の多い市内中心部420キロ平方メートルをカバーしている(杭州市の市区の面積は約3000キロ平方メートル)。すでに杭州市では、警察に寄せられる交通違反や交通事故の通報のうち、8割がAIからのものだという。

 ET City Brainのデータは、警察の管制センターでリアルタイムにモニタリングされている。警察管制センターは、市中心部を走行する車両や通行人の数と位置、渋滞の状況、事故や違反が発生した場所を15秒間隔で把握しており、事故や事件が発生した場合はAIで車両や通行人を特定する。例えば、ひき逃げ事件が発生すると、ライブカメラに映った車両の色・形・ナンバーの情報をもとに車両を特定して地図上で自動追跡することが可能だ。

ET City Brainのデータをダッシュボードで可視化。Alibaba Cloudのデータ可視化ツール「DataV」を利用しているッシュボード上でカメラ映像をズームして車両を特定することも可能

 管制センターが道路上の車両数をリアルタイムに把握し、データ分析による渋滞予測が可能になったことで、杭州市では、救急車の搬送時間が50%短縮された。

 また杭州市では、ET City Brainに蓄積されたデータをもとに交通渋滞の要因を分析し、新たに信号機や右折・左折レーンを設置するなどの対策を講じることで、交通渋滞を15%緩和した。今後、ET City Brainのカバー範囲を段階的に拡大し、将来的には市内に設置された約8000台のライブカメラが生成する年間100ペタバイト(PB)規模のデータ、公共バス約5000台からの1PBのデータ、タクシー約1万台からの3PBのデータなどをすべてET City Brainに取り込んでいく計画だとする。

管制センターから交通渋滞の状況を見ながら救急車に最適なルートを指示。杭州市では救急車の搬送時間が50%短縮された

ET City Brainを支えるオンプレ版Alibaba Cloud「Apsara Stack」

 ET City Brainを支えるのは、Alibaba CloudのIaaS、マネージドDBやビッグデータ分析サービスなどのPaaS、機械学習やAIのテクノロジーだ。

 Alibaba Cloudには、PB級の大容量データに対応したマネージドDWH「MaxCompute」や、オープンソースのHadoopやSparkをベースにした大規模データ分散処理サービス「E-MapReduce」、グラフィカルなダッシュボードでデータを可視化する「DataV」、機械学習サービス「PAI」、音声認識や画像認識AI APIサービスなどがあり、これらがET City Brainで利用されている。

 特筆すべきは、杭州市の大規模なET City Brainのシステムが、すべてオンプレミス版Alibaba Cloud「Apsara Stack」上に構築されている点だ。Apsara Stackは、パブリッククラウドのAlibaba Cloudのサービスの一部を、顧客のオンプレミスデータセンターで利用できるようにするソフトウェア。アリババが認証したハードウェア上に、クラウド版Alibaba Cloudと同じアーキテクチャのIaaS、PaaSの仕組みを構築できる。

 パブリッククラウドのサービスをオンプレミスで利用できるようにする仕組みは、2018年に入って他のパブリッククラウドベンダー各社も打ち出している。AWSは8月にマネージドデータベースAmazon RDSをオンプレミスやエッジの環境で提供する「Amazon RDS on VMware」を発表、GCPは7月にKubernetesのマネージドサービスGKEのオンプレミス版「GKE On-Prem」を発表した。また、Azureでは2017年9月にオンプレミス版Azure「Azure Stack」の出荷を開始している。

 オンプレミス版のパブリッククラウドは、データをクラウドに置けないケースや、データをエッジで高速に処理したいケース、ネットワークなどのシステム要件がクラウドで満たせないケースでも、オンプレミス環境で最新のパブリッククラウドの機能が利用できるようにするものだ。AWS、GCPのものはデータベース、コンテナ管理基盤という限定された機能を切り出しているのに対して、Azure StackはIaaS、PaaSの基本的な機能を全体的に取り込んでいる。Alibaba CloudのApsara StackはAzure Stackに近いもので、IaaS、コンテナ管理基盤、マネージドDBなどのPaaSの機能がある。加えて、機械学習とビッグデータ分析関連の主要機能を実装している。

Apsara Stackの機能一覧

 杭州市のET City Brainは、警察向けの情報、車両や個人を特定する情報を扱うという特性から、Apsara Stackを使って市のプライベートクラウドとして運用している。オンプレミス版パブリッククラウドで稼働するシステムは横展開が容易であり、アリババグループは杭州市以外の中国内10都市にもApsara Stackを基盤としたET City Brainを導入し、同様のスマートシティプロジェクトを進めている。

 さらに中国国外では、ET City Brainをパブリッククラウドで運用している事例もある。マレーシアのクアラルンプールは、アリババグループと提携してET City BrainのシステムをパブリッククラウドのAlibaba Cloudで導入した。Apsara Stackで稼動するシステムはクラウド版のAlibaba Cloudでも動く。Alibaba Cloudでは、AIと大規模データ分析を統合した構築済みのシステムを「ET Brain」のブランド名で、オンプレミスでもパブリッククラウドでも導入できる業種別ソリューションとして用意している。ET City Brainは、ET Brainの政府・自治体向けソリューションの位置づけであり、中国以外の国でもすぐに利用できる。

■関連サイト

カテゴリートップへ

この連載の記事

ASCII.jp特設サイト

クラウド連載/すっきりわかった仮想化技術

ピックアップ